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多目的コホート研究(JPHC Study)

食事パターンと前立腺がん罹患との関連

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、新潟県長岡、茨城県水戸、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10保健所管内(呼称は2018年現在)にお住まいだった方々のうち、平成7年(1995年)と平成10年(1998年)にアンケート調査に回答していただいた45〜74歳の男性43469人を平成24年(2012年)まで追跡した調査結果に基づいて、食事パターンと前立腺がん罹患との関連を調べました。その研究結果を専門誌に論文発表しましたので紹介します(Cancer Causes & Control 2018年29:589-600)。

これまで多目的コホート研究では、食事パターンといくつかの疾患との関連について検討し、大腸がん、乳がんなどの欧米に多いがんでは欧米型の食事パターンでリスクの増加がみられ、逆に健康型食事パターンでは、これらのがんのみならず死亡や自殺のリスクの低下がみられています。

前立腺がんはまだ欧米諸国に比べると少ないものの日本人で増加しつつあるがんです。現在、前立腺がんの要因としては、年齢や人種、家族歴の他、肥満や高身長がリスクをあげる可能性が高いとされていますが、食事要因については十分に明らかにされていません。本研究では、特に食事のバランス全体をとらえるため、研究開始から5年後に行った食事調査アンケートから推計した食事パターンを用いて、食事パターンと前立腺がんとの関連を検討しました。

 

研究方法の概要

本研究の対象者43469 人の男性を、2012年末まで約14年追跡したところ、1156例が新たに前立腺がんと診断されました。研究開始から5年後に行った食事調査アンケート結果に基づき、134品目の食品及び飲料の摂取量を用いて、野菜や果物、いも類、大豆製品、きのこ類、海そう類、脂の多い魚、緑茶などが関連した「健康型」、肉類・加工肉、パン、果物ジュース、コーヒー、ソフトドリンク、マヨネーズ、乳製品、魚介類などが関連した「欧米型」、ご飯、みそ汁、漬け物、魚介類、果物などが関連した「伝統型」の3つの食事パターンを抽出しました(図1)。

図1. 各食事パターンに関連する食品

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食事調査票から得られた食事パターンの正確さについて

 

欧米型食事パターンで前立腺がんリスクが増加

3つの食事パターンについて、各対象者におけるパターンのスコアにより5つのグループ(Q1: 最低位, Q2: 第2分位, Q3: 第3分位, Q4: 第4分位, Q5: 最高位)に分類し、その後の前立腺がん罹患との関連を調べました。欧米型食事パターンのスコアが最大のグループ(Q5)では最小スコアのグループ(Q1)と比較して、前立腺がん(全症例)のリスクが22%増加することが分かりました。このリスク増加の傾向は、前立腺内にとどまっている限局がんでも、統計学的有意ではありませんでしたが前立腺を超えて広がっている進行がんでも見られました(図2上段)。
一方、近年のPSA検査の普及により、健康意識が高い人でPSA検査を受ける人のほうが、より前立腺がんが発見される影響(検診バイアス)を反映している可能性を取り除くために、PSA検査を受けずに、自覚症状で発見された前立腺がんに限定して、食事パターンとの関連をみました。その結果、健康型食事パターンのスコアが最大のグループ(Q5)では、最小のグループ(Q1)と比較して、前立腺がん(全症例)のリスクが約30%低下し、特に限局がんではその傾向が顕著でした(図2下段)。伝統型食事パターンについては前立腺がんとの関連はみられませんでした。

図2. 食事パターンと前立腺がん罹患リスク

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この研究について

今回の結果では、健康型の食事パターンのスコアが高いグループで自覚症状により発見された前立腺がんリスクの低下がみられました。健康型の食事パターンでは、野菜や果物、イモ、大豆食品、きのこ、海藻を多く含んでおり、これらの摂取の多いことが前立腺がんの予防につながったと考えられます。逆に、欧米型食事パターンスコアの高いグループで前立腺がんリスクが増加しました。日本人では、欧米型食事パターンを構成する主要な食品である肉類・加工肉、乳製品が、飽和脂肪酸の主要な摂取源となっており、欧米型食事パターンにより飽和脂肪酸摂取の多くなること、または赤肉や加工肉に含まれるヘム鉄の高摂取とそれによる硝酸塩の増加が前立腺がんのリスクの増加につながっている可能性があります。さらに、赤肉に含まれる亜鉛は男性ホルモンであるテストステロンの前立腺における合成に不可欠であり、また肉の高温調理の際に生成されるヘテロサイクリックアミンHCAやポリサイクリックアミンPAHも前立腺がんのリスク増加に寄与している可能性があります。このように、メカニズムについては今後解明が必要ですが、本研究の結果からは、欧米型の食事パターンに偏らず、健康型の食事パターンに近づけていくことが、前立腺がんのみならず欧米に多く日本でも主要になっているがんの予防に役に立つと考えられます。

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