多目的コホート研究(JPHC Study)
2007/3/1 インスリン関連マーカーと大腸がんの関係
多目的コホート(JPHC)研究から、保存血液を用いたインスリン分泌を反映するC-ペプタイドなどの血液検査の値と大腸がんリスクの関係を調べた結果が発表されました。(「インターナショナル・ジャーナル・オブ・キャンサー」2007年1月WEB先行公開) 多目的コホート研究では、研究を開始した1990年から1992年(コホートI)と 1993年から1995年(コホートII)に、参加者のうち約4万人の方から、研究のために血液をご提供いただきました。 今回の研究は、その中で追跡期間中に大腸がんになった患者グループと、年齢・性別・居住地域等をマッチさせた、がんにならなかった対照グループで、インスリン分泌を反映するC-ペプタイド、インスリン様成長因子-I(IGF-I)、2種類のインスリン様成長因子結合蛋白(IGFBP-3、IGFBP-1)の濃度の値を比較したものです。 保存血液を用いた研究の実施にあたっては、まず具体的な研究計画を国立がん研究センターの倫理審査委員会に提出し、人を対象とした医学研究における倫理的側面等について審査を受けてから開始します。本研究班における、保存血液を用いる研究計画については、研究班のホームページをご覧ください。 国立がん研究センターにおける研究倫理審査については、公式ホームページをご参照ください。
C-ペプタイド値が高い男性で大腸がんリスク高く
追跡期間中、375人に大腸がんが発生しました。Cペプタイド値によって4つのグループに分け、大腸がんのリスクを比べました。すると、C‐ペプタイドの値の最も高いグループの大腸がんリスクは、最も低いグループの3.2倍で、値の高いグループほどリスクがだんだん高くなる関連がみられました。女性では、関連がみられませんでした。 IGF-I、IGFBP-3、IGFBP-1については、男女とも大腸がんリスクとの関連はみられませんでした。次に、男性のC−ペプタイドによる大腸がんリスクを、部位別に調べました。すると、C−ペプタイド値による大腸がんリスク上昇傾向は、直腸がんよりも結腸がんで、よりはっきりと現れました。
インスリン関連因子と大腸がん
運動不足や肥満で大腸がんリスクが高くなるメカニズムの1つに、高インスリン血症の影響が挙げられます。IGF-Iには細胞増殖を促す働きがあり、IGFBP-1は IGF-Iに結合してその働きを抑えます。運動不足や肥満によって血中のインスリン濃度が下がらなくなると、IGFBP-1の産生が抑制され、IGF-Iの働きが活発になります。血中のIGF-Iの活性が高い状態が続くと、その細胞増殖作用などを通じて、大腸がんの発生リスクが高くなると考えられます。
この研究について
この研究では、インスリン関連マーカーによる大腸がんリスクを部位別に検討しました。その結果、インスリン分泌を表すC−ペプタイドの値が男性の大腸がん、特に結腸がんのリスクと関連することがわかりました。 詳しくは、概要版をご覧ください。
コホート研究の中の、症例対照研究
この研究の母体となる多目的コホート研究では、最初に生活習慣などのリスク要因を調査し、その後の長期追跡期間のがん等の発生との関連を前向きに調べています。今回の研究は、その中で、保存しておいた血液検体を測定して「症例」と「対照」を比較する「コホート内症例対照研究」という方法で実施しました。