多目的コホート研究(JPHC Study)
2006/4/19 血中の高感度CRP(C反応性蛋白)の値と大腸がんの関係
多目的コホート(JPHC)研究から、保存血液を用いた高感度CRPの値と大腸がんリスクの関係を調べた結果が発表されました。(「キャンサー・エピデミオロジー・バイオマーカーズ・アンド・プリベンション」2006年4月14日発行)。
多目的コホート研究では、研究を開始した1990年から 1992年(コホートI)と1993年から1995年(コホートII)に、参加者のうち約4万人の方から、研究のために血液をご提供いただきました。今回の研究は、その中で追跡期間中に大腸がんになった患者グループと、年齢・性別・居住地域等をマッチさせた、がんにならなかった対照グループで、保存血液の炎症マーカーであるCRP(C反応性蛋白)の値を比較したものです。大腸がんを粘膜内がんと浸潤がんに分けて高感度CRPとの関連を検討した前向き研究として、最初の報告になります。
保存血液を用いた研究の実施にあたっては、まず具体的な研究計画を国立がん研究センターの倫理審査委員会に提出し、人を対象とした医学研究における倫理的側面等について審査を受けてから開始します。本研究班における、保存血液を用いる研究計画については、研究班のホームページをご覧ください。
国立がん研究センターにおける研究倫理審査については、公式ホームページをご参照ください。
高感度CRP値の高い人で大腸がんリスク高く
多目的コホート研究の一環として、40‐69歳の男女約4万人を、2003年12月末までのおよそ11年半追跡したデータを用いて、血液中の高感度CRPの値とその後の大腸がんリスクの間にどのような関連があるかを調べてみました。
追跡期間中、375人に大腸がんが発生しました。CRP値によって4つのグループに分け、大腸がんのリスクを比べました。すると、0.96 mg/l 以上の最も高いグループの大腸がんリスクは、0.24 mg/l 未満の最も低いグループの1.6倍になりました。
部位別では直腸よりも結腸で、タイプ別では浸潤がんよりも初期の粘膜内がんで、より強い関連が確認されました。高感度CRP値が最も高いグループの結腸の粘膜内がんのリスクは、最も低いグループの2.6倍になりました。高感度CRP値は、結腸の発がんリスクの予測に役立つかもしれません。
高感度CRPとは
CRPは、一般的によく行われる血液検査で、肺炎など急性の炎症やがん等があると高い値を示します。ある検査会社では、0.5mg/dl (5mg/l)を正常値とします。一方、高感度CRPでは、通常のCRP検査の正常値の範囲内(陰性)であるとされる、より低い範囲の値を測定します。その結果は、慢性の弱い炎症を反映し、血管内皮の機能障害と関連するといわれ、心筋梗塞等のリスクの予測等に利用されています。
大腸がんの発生にも炎症が関与している可能性が指摘されていて、非ステロイド系抗炎症剤を使用している人の間では大腸がんリスクが低くなることを示す疫学研究の結果もあります。しかし、CRPとその後の大腸がん発生の関連を調べた疫学研究はまだ数少なく、結果も一致していません。
コホート研究の中の、症例対照研究
この研究の母体となる多目的コホート研究では、最初に生活習慣などのリスク要因を調査し、その後の長期追跡期間のがん等の発生との関連を前向きに調べています。今回の研究は、その中で、保存しておいた血液検体を測定して「症例」と「対照」を比較する「コホート内症例対照研究」という方法で実施しました。
詳しくは、ホームページに掲載された概要版をご覧ください。