多目的コホート研究(JPHC Study)
肥満指数と死亡率との関係について
-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-
私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、 日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)には、岩手県二戸、秋田県横手、 長野県佐久、沖縄県石川という4地域にお住まいの、40〜59歳の男女約4万人の方々に、アンケートに回答して頂き ました。その後10年間の追跡調査にもとづいて、肥満指数(BMI)と死亡率の関係を調べた結果を、専門誌で論文発表 しましたので紹介します(International Journal of Obesity 2002年 26巻 529-537ページ)。
[メモ]BMIとは、Body Mass Indexの略語で、肥満指数と訳されます。次のような簡単な計 算式で求められます。体重(kg)÷ [身長(m)]2体重の単位はキログラム、身長の単位はメートルです。体重70キロで身長が1.72メートル(172センチ)であれば、 70÷1.72÷1.72=23.7と計算します。
やせていても、太っていても死亡率は高い
1990年時点の身長と体重からBMIを算出し、7グループに分けて10年間の死亡率を比べてみました。 死亡率の算出にあたっては、年齢や喫煙などの生活習慣、さらに病気になった結果としての体重変化による影響を統 計的手法により調整しながら行いました。その結果、BMIが 23.0-24.9の人の死亡率を基準として、他のグルー プの死亡率が何倍に相当するかで表しますと、BMIと死亡率との関係を表すグラフは、男女共に、アルファベットのU 字型になりました(図)。
BMIが最小のグループと最大のグループでは、基準グループに比べ死亡率がどちらも約2 倍と高くなっていました。また、男性では、19.0〜22.9というこれまで望ましいと考えられていたBMIにおいても、 死亡率が高くなっていました。一方、27.0〜29.9のグループでも死亡率は高いという結果でした。女性では、亡くな られた方が少なかったので、はっきりとは言えませんが、BMIが25をこすと死亡率が高くなる傾向にありました。
男性では肥満よりもやせ傾向での死亡率の増加が問題
死亡率が高いことが示されたBMIが23未満のグループに属する男性は、全体の44%を占めています。 一方、BMIが27以上の男性は11%に過ぎません。もし、今回の調査集団の男性が、全てBMI 23以上25未満であり、この グループでの最も低かった死亡率を当てはめることが出来たと仮定すると、BMI 23未満で起こった死亡519名中の170 名(全死亡943名の18%)、BMI 27以上で起こった死亡101名中の34名(同、4%)の死亡を予防できたはずという試算 が出来ます。
即ち、少なくともこの40〜59歳の男性集団においては、太っていることよりも、やせ傾向であることの 方が、10年以内の死亡率という観点から深刻な問題であったと言えます。
肥満は欧米型の病気の重要な危険因子
肥満は、糖尿病・高血圧・動脈硬化に加えて、乳がんや子宮内膜がんなどの病気にとっては、重要 な原因の一つであることは間違いのない事実です。今回の調査集団においても、糖尿病と高血圧にかかっている人の割 合は、やせていればやせている程、少ないという結果が得られています。欧米では、BMIが25以上の割合が半数以上を 占め、また、30以上の割合も1998年には20%近くに達しています。その結果、肥満に起因する心筋梗塞やがんによって 多くの命が奪われており("米国人の死亡の13%は、BMIが25以上の肥満に起因している"との推計もあります)、肥満 は大きな社会問題になっています。一方、日本では、BMIが30以上の割合は男性で2%、女性で3%程度と、まだまだ少 ないのが現状です。また、心筋梗塞や乳がんが原因で亡くなっている人の割合も少なく、肥満との関連が指摘されて いない肺・胃・肝臓のがんや、低栄養で起こりやすい脳出血や肺炎などが死因となった人も多く、欧米の死因とは明 らかに異なるものでした。
日本人を対象とした調査データに基づいた健康指針づくり
これまで、このような追跡調査からのデータは、欧米からのものが殆どを占めていました。その 結果、"肥満やコレステロールは健康に良くない"という情報がわれわれの生活に浸透してしまいました。しかしなが ら、日本人は、かかりやすい病気の種類も、生活習慣も、あるいは、遺伝子も異なります。今回の結果は、明らかに、 われわれ独自のデータに基づいて、健康の維持増進のための指針を作っていかなければならないことを物語っている ものと考えます。