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多目的コホート研究(JPHC Study)

肺がん家族歴と肺がん罹患との関連について

-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・虚血性心疾患・糖尿病などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10保健所(呼称は2005年現在)管内にお住まいだった、40~69才の男女約10万人の方々を、平成16年(2003年)まで追跡した調査結果にもとづいて、肺がん家族歴の有無とその後の肺がん発症との関連を調べた結果を、専門誌で論文発表しましたので紹介します。 (CHEST 2006年130巻 968-975ページ

研究開始時点のアンケート調査で、両親、あるいは兄弟・姉妹に、肺がんにかかった人がいるかどうか(肺がんの家族歴)をたずねました。家族歴が日本人の肺がんの発生にどれくらい影響するのかは、まだよくわかっていません。そこで、肺がん家族歴ありの人となしの人とで、その後の肺がんの発生率を比較してみました。男性48,834人、女性53,421人の合計約10万人がこの研究の対象となりました。肺がん家族歴ありの人は、男女とも、対象者の2%でした。

喫煙以外の肺がんの危険要因

日本では男女とも肺がんの発生率が増加しています。肺がんの最大の危険要因が「喫煙」であることはよく知られています。しかし、喫煙以外にも肺がんの危険要因が存在することが推察され、多目的コホート研究でもこれまでに、女性ホルモン関連要因と肺がんとの関連を報告しています。

肺がん家族歴ありの人は肺がんがんになりやすくなる可能性

調査開始から11年間に791人(男性584人、女性207人)が肺がんにかかりました。肺がん家族歴なしのグループと比べ、肺がん家族歴ありのグループでは、肺がんにかかる危険性が2倍ほど高くなっており、肺がんになりやすい傾向のあることがわかりました。

この傾向は、性別では男性よりも女性でやや高く、男性で1.7倍、女性で2.7倍でした。また組織型別では、肺がんの中でも喫煙と関連の強い扁平上皮がんではっきりしていました。しかしその一方で、喫煙状態別では、喫煙したことのない人で、現在喫煙している人よりも明らかでした(図)。

なお、分析にあたっては、年齢、性別、居住地域、本人の喫煙状況、および職場での受動喫煙の有無というそれぞれの条件のグループによる違いが、今回の研究結果に影響しないように配慮して、肺がん家族歴のグループによる肺がんの危険性を比較しました。しかしながら、そうした影響を完全には除ききれていない可能性もあります。

肺がん家族歴と肺がん罹患との関連

 
肺がん家族歴があると肺がんにかかりやすくなる理由

両親や兄弟・姉妹に肺がんがあると、本人も肺がんにかかる危険性が高くなる理由は解明されていません。家族に同じがんになった人がいるということは、遺伝的要因、すなわち体質的に肺がんになりやすい共通点があるという可能性を示すだけではありません。環境要因、すなわち家族が同じような生活習慣を共有しているためという可能性も示します。肺がんリスクについては、たとえば、家族の誰かが喫煙していると、他の家族もたばこの煙を吸う機会が多くなるかもしれません。

家族歴があると肺がんにかかりやすくなり理由は、一つではなく、いくつかの組合せによるものと考えられます。本研究では、その詳細を解明することはできませんが、今後は、喫煙以外の生活習慣要因から肺がんの原因を探る他、体質に関連する遺伝子タイプや、遺伝子タイプと喫煙習慣などの環境要因との相互作用の研究を進めることにより、肺がん発生のメカニズムのさらなる解明が期待されます。

肺がんの予防はやはり禁煙から

今回の研究は、肺がんのメカニズムを考えるための手がかりとして重要です。しかし、現時点で肺がんの予防に最も有効なのは、「禁煙」であるのはいうまでもありません。肺がん予防のためには、たばこを現在吸っている人は1日も早く禁煙すること、吸っていない人は喫煙し始めないのはもちろん、他人のたばこの煙を避けることが大切です。

 

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