トップ >多目的コホート研究 >現在までの成果 >血中イソフラボン濃度と肝がん発生との関連
リサーチニュース

JPHCに関するお問い合わせはこちら
 


 

多目的コホート研究のメールマガジン購読申込みはこちら

多目的コホート研究(JPHC Study)

血中イソフラボン濃度と肝がん発生との関連

-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果報告-

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん、脳卒中、心筋梗塞、糖尿病などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。

平成5年(1993年)に、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の6保健所(呼称は2014年現在)管内にお住まいだった40~69歳の方々にアンケート調査への回答をお願いしました。そのうち、必要な情報があり、任意で血液を提供頂いた約1万9千人について、その後平成18年(2006年)まで追跡しました。その調査結果に基づいて、血中イソフラボンと肝がん発生との関連を調べた結果を専門誌に論文発表しましたのでご紹介します(Cancer Epidemiology Biomarkers Prevention 2015年24巻532-537ページ)。

肝がんは、男性と比べて女性で発生頻度が低く、またがんになった後の生存期間も長いことから、女性ホルモン(エストロゲン)は肝がんに対して予防的に働くのではないかと言われています。エストロゲンの影響が指摘されているがん(乳がんなど)では、イソフラボン(大豆や大豆製品に多く含まれている栄養素)の化学構造がエストロゲンと類似しているために、エストロゲンの働きと同じように作用したり、エストロゲンの作用を妨げたりするという知見が報告されています。以前私たちは、イソフラボンが肝がん発生に影響しているのではないかという仮説を立てて、食事摂取頻度アンケートから算出されたイソフラボン摂取量と肝がんとの関連を調べ、女性においてイソフラボン摂取量が高いと肝がん発生リスクが高くなっていたことから、イソフラボンを多くとると肝がんに予防的に働くエストロゲンの作用を妨げる可能性が考えられました。そこで今度は、イソフラボンの体内吸収や代謝を考慮した指標である血中イソフラボン濃度を用いて、肝がんとの関連を検討しました。

保存血液を用いた、コホート内症例対照研究

研究を開始した時期(1993年から1995年まで)に、一部の方から、健康診査等の機会を利用して研究目的で血液を提供していただきました。その中から、B型あるいはC型肝炎ウイルス陽性者約1,500人を今回の研究対象集団としました。

追跡期間中、対象集団の中から90人(男性62人、女性28人)に肝がんが発生しました。肝がんになった方1人に対し、肝がんにならなかった方から年齢・性別・居住地域・肝炎ウイルス(B型かC型か)・採血時の条件・(女性に関しては閉経の有無)をマッチさせた2人を無作為に選んで、175人(男性121人、女性54人)を対照グループとしました。

保存血液を用いて血中イソフラボン類の濃度(ゲニステイン、ダイゼイン、グリシテイン、イコール)を測定し、それぞれの濃度について低濃度グループ、中間グループ、高濃度グループの3グループに分け、肝がんリスクを比較しました。

イソフラボン濃度と肝がんリスクは男女ともにはっきりした関連を認めず

図1および図2に示すように、今回は男性だけでなく女性でも血中イソフラボン濃度と肝がんとの間にはっきりした関連を認めませんでした。

血中イソフラボンと肝がん図1

血中イソフラボンと肝がん図2

 

この研究について  

私たちは、以前に報告した食事摂取頻度アンケートから算出されたイソフラボン摂取量での研究と同様に、女性ではイソフラボン濃度が高いほど肝がん発生リスクが高くなると予想していましたが、今回の研究では血中イソフラボン濃度と肝がんとに関連性を認めませんでした。この理由として、女性での肝がん患者数が少ないため統計学的な検討が十分ではなかったからではないかと考えましたが、以前の研究ではほぼ同じ患者数で関連性が示唆されました。また、食事摂取頻度アンケートから算出されたイソフラボン摂取量のような長い期間の摂取状況を示す指標と、血液から測定されるイソフラボン濃度のような短い期間(6~8時間で血液中濃度が半分になる)の摂取状況を反映する指標とで結果が異なる可能性もあると考えましたが、多目的コホート研究からの胃がん、肺がん、乳がん、前立腺がんの報告では、イソフラボン摂取量でも血中イソフラボン濃度でも同じような結果を示していました。

そこで私たちは、摂取したイソフラボンが腸肝循環する(腸で吸収されて肝臓に到達し、そこで代謝された後、胆汁に溶けて腸に流れ込みまた吸収される)ことに注目しました。今回の研究は肝炎ウイルス感染者に限定していますので、肝炎ウイルスによって肝疾患が進行し肝機能が低下してくるとイソフラボンの代謝が滞り、イソフラボンをとっても血液濃度がそれほど上がらないのではないかと推測しました。そのため、肝疾患の進行程度によりイソフラボン摂取量と血中イソフラボン濃度との関係が様々であり、2つの指標で肝がんとの関連についての結果が異なったのかもしれません。ただし、私たちは、調査開始時点での肝炎ウイルスによって肝疾患の程度を十分に評価できていないので、この可能性について詳細な検討ができませんでした。今後の研究においては、肝炎の早期における血中イソフラボン濃度と肝がんとの関連性を検討していく必要がありそうです。

なお、イソフラボン摂取だけでなく、血中イソフラボン濃度でも関連を認めなかった男性においては、イソフラボンの肝臓の発がんへの影響はほとんどないのではないかと思われました。

 

研究用にご提供いただいた血液を用いた研究の実施にあたっては、具体的な研究計画を国立がん研究センターの倫理審査委員会に提出し、人を対象とした医学研究における倫理的側面等について審査を受けてから開始します。今回の研究もこの手順を踏んだ後に実施いたしました。国立がん研究センターにおける研究倫理審査については、公式ホームページをご参照ください。

多目的コホート研究では、ホームページに保存血液を用いた研究計画のご案内を掲載しています。

上に戻る