多目的コホート研究(JPHC Study)
糖尿病と全死亡および循環器疾患・がんによる死亡との関連について
-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-
私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防や健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、東京都葛飾区、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の11保健所管内にお住まいだった方々のうち、がんや循環器疾患になっていなかった40~69歳の男女約10万人を、平成22年(2010年)末まで追跡した調査結果にもとづいて、糖尿病(自己申告)の有無と全死亡・主要死因死亡との関連を調べました。その研究結果を論文発表しましたので紹介します(BMJ Open. 2015 May 3;5(4):e007736)。
糖尿病は近年増加していますが、一般的には糖尿病は生命に関わる疾患とは考えられていないと思います。しかし糖尿病の人ではそうでない人と比べて死亡のリスクが高くなるという報告があります。そこで、糖尿病と全死亡および循環器疾患による死亡、がんによる死亡のリスクとの関連を調べました。
糖尿病群において死亡リスクが増加
研究開始時に自己申告の糖尿病があった群ではそうでない群と比べて総死亡の危険度がハザード比(95%信頼区間)で、男性で1.60 (1.49-1.71)、女性で1.98 (1.77-2.21)と増加していました。
死因別では、循環器疾患による死亡については男性で1.76 (1.53-2.02)、女性で2.49 (2.06-3.01)、がんによる死亡については男性で1.25 (1.11-1.42)、女性で1.04 (0.82-1.32)でした。非がん非循環器疾患による死亡についても、男性で1.91 (1.71-2.14)、女性で2.67 (2.25-3.17)でした。循環器疾患については女性の虚血性心疾患で約4倍と大きなリスクの上昇が認められました。がんによる死亡リスクの上昇は中等度でしたが、男性の肝がん、膵がんおよび女性の肝がんについてはリスクが高く、糖尿病でない人と比べてリスクが2倍程度になっていました。研究開始から5年以内の死亡例を除いた場合も検討しましたが、結果は大きくは変わりませんでした。
また研究開始後に糖尿病を発症した人も対象にして糖尿病発症時期と死亡との関連を調べたところ、診断された時期が昔であるほど糖尿病による死亡のリスクが高いことが分かりました。さらに年齢層ごとの解析では、年齢が若いほうが糖尿病による死亡のリスクが高いことも分かりました。
糖尿病と死亡リスクはどう関係しているのか
糖尿病は血管に障害を与えると考えられており、糖尿病により循環器疾患による死亡が増加するのは想定される結果です。またわれわれは以前、糖尿病によりがんになるリスクが増加する、という研究結果を発表しています(https://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/288.html)。今回の研究ではがんによる死亡も増加することが示されました。また非がん非循環器疾患による死亡についても糖尿病でリスクの増加が認められました。 糖尿病は近年増加していますが、一般的には糖尿病が生命に関わる疾患とは認識されていないと思います。循環器疾患やがんを含めて、糖尿病で死亡リスクが増加する原因について詳しいことが分かっているわけではありませんが、死亡リスクが増加することは本研究からも過去の研究からも確かなことのようです。
研究について
この研究では、糖尿病があるかどうかをアンケート調査の自己申告によって調べたものであり、この方法では糖尿病ありの人を100%把握できていない可能性があります。