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現在までの成果

居住地の剥奪指標と脳卒中リスクとの関連

-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん、脳卒中、心筋梗塞、糖尿病などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防や健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)および平成5年(1993年)に岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の9保健所(呼称は2009年現在)管内にお住まいだった40~69歳の男女約9万人の方々を平均約16年間追跡した調査結果にもとづいて、居住している近隣地区の調査開始時期の状況と脳卒中死亡ならびに発症リスクとの関連を調べた結果を論文発表しましたので紹介します。(J Epidemiol 2015年25巻3号:254ページ)

 

脳卒中リスクは居住地の社会経済状況によって異なるのか

欧米社会では、貧困な状況に置かれた人々が多く住まう居住地に健康問題の多くが集中することが、健康の社会的格差の一端として問題視されてきました。これを計測するために、地区の社会経済状況の水準を指標化したものが 地理的剥奪指標 areal deprivation index(以下、剥奪指標)です。剥奪指標の値が大きく、貧困の度合いが高いと見なされる地区ほど死亡率などの健康指標が悪いという関連が数多く報告されています。

一方、日本においても、最近、生活に密着した近隣地区という小さな地理的なスケールの剥奪指標を国勢調査(1995年)の町丁字等の指標を合成することで作成し、総死亡リスクとの関係を検討した結果が、多目的コホート研究から報告されました。(https://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/3434.html) そこで、本研究では、このような近隣地区の剥奪指標が脳卒中死亡や発症リスクと関連があるのではないかと考え、分析しました。

 

剥奪水準が高い居住地で脳卒中発症リスクが高い

今回の研究では、剥奪指標をその値の大きさからQ1~Q5の5つに分類し(Q1が剥奪指標の最も裕福な地区グループ、Q5が最も貧しい地区グループ)、グループ間での脳卒中死亡ならびに発症リスクの違いを評価しました。その結果、調査開始時期に剥奪指標が高い貧しい地区に住んでいた人ほど、脳卒中を発症するリスクが高くなる傾向が確認されました。(図1)

 

 220図1

この研究結果から、個人の社会経済状況に加えて、居住地域の社会経済状況がそこに居住する住民の脳卒中リスクを上昇させる可能性が示されました。今後、脳卒中リスクの軽減には個人に加えて居住地域の社会経済状況やそれに伴う地域リソース地域の力などに関する対策の必要性が示唆されます。

一方、脳卒中死亡リスクとの関連は見られませんでした。その理由の一つとして、今回の検討で用いた近隣居住地区は脳卒中死亡リスクの地域差を検討するには適切な地理的スケールでなかった可能性が考えられます。脳卒中の予後に影響のある医療サービスの分布はより大きな地区レベル(たとえば医療圏など)に影響を受ける可能性があり、死亡リスクとの検討にはより大きな地理的スケールの剥奪指標を用いることが必要と考えられます。

 

この研究について

この研究では、個人の社会経済状況に関する情報として職業を調整しましたが、個人の所得や教育歴といった情報がなく考慮することが出来ませんでした。したがって、本研究の結果は把握しきれなかった個人の貧困による健康影響が地域の影響として現れた可能性があります。しかし、これまで日本においては居住地域の社会経済状況がそこに居住する個人の脳卒中リスクに影響する可能性を示した疫学研究はなく、これからの公衆衛生対策に重要な示唆を与えるものだと考えられます。

 

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