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現在までの成果

血中のC-ペプチド濃度ならびにグリコアルブミン濃度とがん罹患リスクとの関連について

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立つような研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の9保健所管内(呼称は2018年現在)にお住まいだった方々のうち、ベースライン調査のアンケートにご回答下さり、健診などの機会に血液をご提供下さった40~69歳の男女約3万4千人の方々を、平成21年(2009年)まで追跡した結果に基づいて、血中C-ペプチド、グリコアルブミンとがん罹患リスクとの関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します(International Journal of Cancer. 2018年9月web先行公開)。

糖尿病は様々ながんのリスクになることが知られており、私たちの研究グループでも同様の可能性を報告しています(糖尿病とその後のがん罹患との関連について)。糖尿病になると高血糖を呈しますが、その前段階では血糖値の上昇を抑えるためにインスリンの過剰分泌が生じており、高血糖だけでなく、高インスリン血症によっても発がんが促進されると考えられています。これまでの前向き研究では、個々のがんを対象とした報告が数編ありましたが、がんを網羅的に調査した報告はありませんでした。そこで、私たちは、日本人を対象とした多目的コホート研究において、過去1カ月間(とくに直近2週間)の血糖値を反映する血中グリコアルブミン濃度と、血中インスリン値の安定した指標である血中C-ペプチド濃度を測定し、がん罹患リスクとの関連を検討しました。

 

保存血液を用いた症例コホート研究について

多目的コホート研究のベースライン調査の一環として、一部の方から、健康診査等の機会を利用して研究目的で血液をご提供いただきました。今回の研究では、血液のご提供に加えて、アンケートにもご回答下さった男女約3万4千人の方々を対象に追跡調査を行いました。約3万4千人の方々の中から追跡調査の開始前に、がんの既往歴がある方、糖尿病のある方などを除いた31,534人を研究開始から2009年まで追跡し、3,498人のがん罹患が確認されました。これに対し、同じ約3万4千人の方々の中から、4,456人を無作為に選んで対照グループに設定しました。今回の研究では、がんに罹患する前の保存血液を用いて、血中C-ペプチド濃度と血中グリコアルブミン濃度の測定を行いました。

 

血中C-ペプチド濃度の上昇はがん全体の罹患リスク上昇と関連

血中C-ペプチド濃度と血中グリコアルブミン濃度を男女別に4等分位に分け、がん全体やがんの部位別に関連を検討しました。その際、がんとの関連が既に知られている、年齢、性別、喫煙、飲酒、身体活動、がん家族歴、肥満度などの要因を統計学的に調整しました。また、血中C-ペプチド濃度と血中グリコアルブミン濃度を相互調整することで、それぞれの影響を評価できるようにしました。
男女全体の結果として、血中C-ペプチド濃度が最も低いグループを基準に、最も高いグループのがん罹患リスクをみたところ、がん全体(全がん)の罹患リスクが統計学的有意に上昇していました(図1)。部位別にみたところ、結腸がん、肝臓がん、腎臓・腎盂・尿管がんで罹患リスクが統計学的有意に上昇していました(図1)。血中グリコアルブミン濃度が最も低いグループを基準に、最も高いグループのがん罹患リスクをみたところ、結腸がん、肝臓がんの罹患リスクが統計学的有意に上昇し、胃がんの罹患リスクが統計学的有意に低下していました(図1)。男女別にみると、血中C-ペプチド濃度と血中グリコアルブミン濃度がともに関連していた結腸がんと肝臓がんでは、男性での関連がより顕著でした(図なし)。

図1 血中のC-ペプチド濃度ならびにグリコアルブミン濃度とがん罹患リスクとの関連(男女全体)

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*血中濃度が最も低いグループを1とした場合の、最も高いグループのハザード比。
**赤字はリスクが上昇、緑字はリスクが低下。

 

まとめ

今回の研究では、インスリンの指標である血中C-ペプチド濃度が上昇すると、血糖の影響を統計学的にのぞいても、がん全体の罹患リスクが上昇する関連が観察されました。部位別にみてみると、結腸がん、肝臓がん、腎臓・腎盂・尿管がんの罹患リスクが上昇していました。また、結腸がんと肝臓がんの罹患リスクは、血中C-ペプチド濃度のみならず、過去1カ月間(とくに直近2週間)の血糖値を反映する血中グリコアルブミン濃度の上昇とも関連していました。従って、本研究から高血糖の影響を差し引いても高インスリン血症が複数のがんのリスク上昇と関連している可能性が示唆されました。また、結腸がんと肝臓がんは、高インスリン血症だけでなく高血糖によってもリスクが上昇している可能性があります。

なお、結腸がんと肝臓がんで観察された関連が男性で顕著にみられたことは、過去の研究においても類似の結果が報告されており、性ホルモンの影響などが考えられています。今回の研究では、血中グリコアルブミン濃度が上昇すると、胃がんの罹患リスクが低下する関連が観察されましたが、これまでに十分な報告が無く、偶然による可能性も否定できません。今後、人種など他の要因による違いも考慮した研究の蓄積が必要と思われます。

多目的コホート研究の参加者からご提供いただいた血液を用いた研究は、国立がん研究センターの倫理審査委員会の承認を得た研究計画をもとに、「疫学研究に関する倫理指針」や「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」などに則って実施されています。国立がん研究センターにおける研究倫理審査については、公式ホームページをご参照ください。

多目的コホート研究では、ホームページで保存血液を用いた研究のご紹介を行っております。

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