トップ >多目的コホート研究 >現在までの成果 >血中の緑茶カテキン濃度と脳卒中および虚血性心疾患との関連について
リサーチニュース

JPHCに関するお問い合わせはこちら
 


 

多目的コホート研究のメールマガジン購読申込みはこちら

多目的コホート研究(JPHC Study)

血中の緑茶カテキン濃度と脳卒中および虚血性心疾患との関連について

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 

血中の緑茶カテキン濃度と脳卒中および虚血性心疾患との関連について 私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立つような研究を行っています。1990年と1993年に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の9保健所管内(呼称は2018年現在)にお住まいだった方々のうち、循環器疾患、がんの既往のない40~69歳の男女約2万9千人の方々を、平成19年(2007年)末まで追跡した結果に基づいて、血中の緑茶カテキン濃度と脳卒中および虚血性心疾患との関連について調べました。この研究結果を国際学術専門誌に発表しましたので紹介します(Atherosclerosis 2018年10月277巻: 90-97)。

カテキンは緑茶に多く含まれている物質です。いくつかの大規模コホート研究において、緑茶の摂取頻度と循環器疾患との関連性が検討されています。複数のコホート研究をまとめた解析結果では、緑茶の摂取が、脳卒中による死亡リスクを軽減し、その予後を改善する可能性が報告されています。JPHC研究においても、毎日4杯以上の緑茶摂取によって、脳卒中発症を20%軽減する可能性を報告しました(緑茶・コーヒー摂取と脳卒中発症との関連について)。緑茶の循環器疾患予防効果には、緑茶に多く含まれるカテキンの抗酸化作用が関与していると推測されていますが、これらの研究では、自己式アンケートやインタビュー等に基づく緑茶摂取量を評価した結果であり、血中のカテキン濃度を直接測定おらず、そのため、茶葉の種類や入れ方などによる実際のカテキン摂取量の差までは考慮していませんでした。 そこで、今回の研究では、カテキンの血中濃度を測定し、より正確なカテキンの摂取量を把握したうえで、脳卒中および虚血性心疾患発症との関連について検討しました。

 

保存血液を用いた症例コホート研究

多目的コホート研究のベースライン調査時に、健康診査等の機会を利用して、研究目的で血液をご提供いただいた男女2万9千人の方々を対象に追跡調査を行いました。2007年末までの追跡調査中に、1,132人の脳卒中、209人の虚血性心疾患発症が確認され、脳卒中に関しては症例1名に対し1名の対照を、虚血性心疾患に関しては症例1名に対し2名の対照を、それぞれ年齢・性別・居住地域・採血時の条件をマッチングするように無作為に抽出し、対照グループとして設定しました。最終的に、脳卒中に関する分析には計2,264人、虚血性心疾患に関する分析には計627人を今回の研究の分析対象としました。

分析対象の保存血液を用いて、血中の主な4種類の緑茶カテキン【エピガロカテキン3ガレート(EGCG)、エピガロカテキン(EGC)、エピカテキン3ガレート(ECG)、エピカテキン(EC)】を測定し、男女別にそれぞれのカテキンの値によって、脳卒中のリスクを検討する際には4つのグループ、虚血性心疾患のリスクを検討する際には3つのグループに分け、関連性を検討しました。その際、肥満度、最大血圧値、降圧剤服薬の有無、糖尿病既往の有無、喫煙、飲酒、高感度CRP値の影響を除外するため、統計学的に調整しました。さらに喫煙習慣の違いによる影響についても検討しました。

 

男性の非喫煙者では血中エピガロカテキン3ガレート(EGCG)濃度が高いと脳卒中発症リスクが低い

 

今回の研究では、測定した緑茶カテキンを全て合算した血中濃度と脳卒中及び虚血性心疾患発症との関連は認められませんでした。しかしながら、緑茶カテキンの一種であるエピガロカテキン3ガレート(EGCG)については、男性の非喫煙者でのみ、血中濃度が一番低いグループに比べて、一番高いグループで脳卒中発症リスクが47%低いことが示されました(図)。

 

312_1

   

まとめ

今回の研究では、血中の緑茶カテキンが検出感度以上であった人が非常に少なかったため、結果の解釈には注意が必要ですが、総緑茶カテキン濃度と脳卒中、虚血性心疾患との関連は認められませんでした。その一方で、エピガロカテキン3ガレートについては、男性の非喫煙者で、血中濃度が高いほど脳卒中発症が少ないことが認められ、緑茶には脳卒中予防に資する成分を含んでいる可能性が示されました。ただし、その効果が存在するとしても、その効果を得るためには、たばこをすわないもしくは止めることが大切と考えられます。

多目的コホート研究の参加者からご提供いただいた血液を用いた研究は、国立がん研究センターの倫理審査委員会の承認を得た研究計画をもとに、「疫学研究に関する倫理指針」や「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」などに則って実施されています。国立がん研究センターにおける研究倫理審査については、公式ホームページをご参照ください。

多目的コホート研究では、ホームページで保存血液を用いた研究のご紹介を行っております。

上に戻る