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多目的コホート研究(JPHC Study)

複数の血中炎症関連マーカーと胃・食道がん罹患との関連について

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立つような研究を行っています。平成5年(1993年)に、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の6保健所管内(呼称は2019年現在)にお住まいだった約2万3千人の方を、平成22年(2010年)末まで追跡した結果に基づいて、複数の血中炎症関連マーカーと胃、食道がん罹患との関連について検討しました。その研究結果を論文発表しましたので紹介します(Cancer Epidemiol Bilmarkers Prev.2019 Apr;28(4):829-832)。

胃粘膜でのピロリ菌の感染、食道粘膜への飲酒・喫煙の影響など、上部消化管において慢性炎症は重要な発がんメカニズムの一つと考えられています。粘膜の障害と再生は、炎症性/抗炎症性サイトカイン、可溶性受容体、血管新生因子、増殖因子などのシグナル伝達を担う分子の複雑な相互作用としてとらえることができます。本研究では、複数の血中炎症関連マーカー濃度を一度に測定する技術を用い、健常集団から収集された血液を用いて、62の炎症関連マーカーの濃度と、その後の胃、食道がん罹患との関連を調べました。

 

保存血液を用いた、症例コホート研究

多目的コホート研究のベースライン調査アンケートに回答のうえ、健診などの機会に血液を提供してくださった40~69歳の男女約2万3千人の方々を対象に追跡調査を行いました。研究開始から平成22年(2010年)末までに446例の胃がん罹患、68例の食道がん罹患が確認されました。これに対し、同じ約2万3千人の方々の中から、774人を無作為に選んで対照グループに設定しました。今回の研究では、がんに罹患する前の保存血液を用いて、炎症関連マーカー濃度の測定を行いました。

 

62の炎症関連マーカーは、いずれも胃がん、食道がんの罹患と関連なし

62の炎症関連マーカーの血中濃度のうち、sEGFRの低値、TSLPの高値と胃がん罹患リスク(図1 )、CRP、CXCL11/ITAC、CCL15/MIP1Dそれぞれの高値と食道がん罹患リスクとの間に関連が見られました(図2)(傾向性P値 < 0.05)。すでにがんが発生していることで炎症関連マーカーが変化している影響を除くため、研究開始から5年以降にがんと診断された症例に絞った解析でも、上記の結果は変わりませんでした。しかしながら、複数のマーカーを一度に調べているため統計学的に有意な関連が出やすいことを考慮した解析(false discovery rateで調整した解析)では、いずれのマーカーも統計学的に有意な関連はありませんでした。

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図1 血中炎症関連マーカーと胃がん罹患との関連

 

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図2 血中炎症関連マーカーと食道がん罹患との関連

*62の炎症関連マーカーのうち統計学的に有意な関連がみられたマーカーのみ図示。
*各炎症関連マーカーの血中濃度の四分位カテゴリの順位が一つ上がるときに、それぞれのがん罹患のハザード比が何倍になるかを示す。
*胃がん:年齢、性、地域、胃がんの家族歴、喫煙習慣、高塩分・塩蔵食品の摂取で統計学的に調整した。
*食道がん:年齢、性、地域、喫煙習慣、飲酒習慣で統計学的に調整した。

  

まとめ

本研究では、血中炎症関連マーカーの濃度と上部消化管のがんとの間には関連は認められませんでした。胃や食道の粘膜での局所における炎症が発がんに関係していることはよく知られています。しかし、本研究で測定された全身の炎症状態を反映する血液中の炎症マーカーは、胃・食道がんの罹患リスクとは関連していませんでした。胃がんでは、これまでのコホート研究において、CRP、SAA、IL8、IL6などとの関連が報告されています。また、イランのコホート研究では、15の炎症マーカーと食道がんリスクとの関連について本研究と異なる結果が報告されています。今回検討した以外の血中マーカーでのさらなる検討が必要と考えられます。 先に報告した血中炎症関連マーカーの濃度と大腸がん罹患との関連でも、false discovery rateで調整した解析では統計学的に有意な関連性はありませんでした。しかし、大腸がんの組織で上昇していることが報告されているケモカインと、大腸がんリスクと関連する血中ケモカインがほぼ一致していたため、大腸がん罹患リスクを予測するマーカーである可能性があるものとして報告しました。

多目的コホート研究の参加者からご提供いただいた血液を用いた研究は、国立がん研究センターの倫理審査委員会の承認を得た研究計画をもとに、「疫学研究に関する倫理指針」や「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」などに則って実施されています。国立がん研究センターにおける研究倫理審査については、公式ホームページをご参照ください。

多目的コホート研究では、ホームページで保存血液を用いた研究のご紹介を行っております。

 

 

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