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多目的コホート研究(JPHC Study)

食事由来の抗酸化能と糖尿病との関連について

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、東京都葛飾区、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の11保健所(呼称は2019年現在)管内にお住まいだった、40~69歳の方々のうち、研究開始から5年後の調査時点に糖尿病やがん、循環器疾患の既往がない男女約6万4千人を、5年間追跡した調査結果にもとづいて、食事由来の抗酸化能と糖尿病発症との関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します(Nutrition.2019 Oct;66:62-69)。

酸化ストレスはインスリン抵抗性を介して糖代謝に影響を及ぼすと考えられており、抗酸化物質を多く含む食品を摂取することで酸化ストレスが軽減し、糖尿病のリスクが下がることが期待されています。しかし、これまでビタミンCやビタミンEといった食品中の単一の抗酸化物質や野菜や果物といった単一の食品と糖尿病リスクとの関連についての報告はあるものの、食品や飲料を含めた食事全体の抗酸化能と糖尿病リスクとの関連については世界でも欧米からの1報しか報告されていません。食事からさまざまな抗酸化物質を摂取していることを考慮すると、食事由来の全体の抗酸化能効果を検討することは、糖尿病予防のためのアプローチの追加情報として役立つかもしれません。
本研究では、食事全体の抗酸化能を把握するために、栄養疫学研究で用いられている鉄還元抗酸化能(ferric reducing-antioxidant power, FRAP法)、酸素ラジカル吸収能(oxygen radical absorbance capacity, ORAC法)、総ラジカル捕獲抗酸化能(total radical-trapping antioxidant parameter,TRAP法)を用いて食事全体の抗酸化能を算出し、これらの値と糖尿病発症との関連を検討しました。

 

食事由来の抗酸化能の算出方法

公表されている各食品の抗酸化能のデータベースを用いて、各食品にFRAP法、ORAC法、TRAP法の抗酸化能の値を割り当て、摂取量を掛け合わせ、それらを合計したものを食事全体の抗酸化能値としました。なお、これらの方法で算出した抗酸化能は、疫学研究を行うために必要な、ある程度の正確さがあることを確認しています。
食事調査票から得られた食事由来の抗酸化能の正確さについて

 

抗酸化能に主に寄与する食品

研究開始から5年後に行ったアンケート調査のデータを用いて、食事由来の抗酸化能値を算出した結果、抗酸化能に主に寄与する食品は、高い順に緑茶(FRAP法:59.7%、 ORAC法:34.7%、TRAP法:64.7%)、果物類(FRAP法:17.1%、 ORAC法:32.9%、TRAP法:16.3%)、野菜類(FRAP法:11.7%、 ORAC法:17.7%、TRAP法:12.9%)でした。

 

食事由来の抗酸化能と糖尿病発症との関連はみられなかった

研究開始から10年後に行ったアンケート調査で、食事調査後の5年間に新たに糖尿病と診断された方は男性692人、女性499人でした。食事由来の抗酸化能値(FRAP, ORAC, TRAP)をそれぞれ4つのグループに分類し、糖尿病発症との関連を調べたところ、統計的に有意な関連はみられませんでした(図)。性別、喫煙習慣、肥満で分けて調べても、統計的に有意な関連は認めませんでした(図なし)。

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調整要因:年齢、性別、地域、BMI、喫煙状況、身体活動、高血圧既往、糖尿病家族歴、コーヒー摂取量、エネルギー摂取量、サプリメントの使用状況

今回の研究では、食事由来の抗酸化能と糖尿病発症との関連は見られませんでした。食事由来の抗酸化能と糖尿病発症に関する欧米の報告では、フランス人女性において、食事由来の抗酸化能が高いほど糖尿病発症のリスクが減少することが報告されています。本研究と結果が異なる理由ははっきりしませんが、追跡期間の違いや食事由来の抗酸化能に寄与している食品が異なるためかもしれません。食事由来の抗酸化能と糖尿病にリスクに関しては研究が少なく、さらなる研究データの蓄積が必要です。

 

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