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多目的コホート研究(JPHC Study)

アクリルアミド摂取量と食道がん・胃がん・大腸がんとの関連について

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防や健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10保健所管内(呼称は2019年現在)にお住まいだった40~69歳の方々のうち、研究開始から5年後に行った食事調査票に回答し、食道・胃・大腸がんになっていなかった約8万8千人を、平成25年(2013年)まで追跡した調査結果にもとづいて、アクリルアミド摂取量と食道がん・胃がん・大腸がん罹患との関連を調べ、研究結果を論文発表いたしましたので紹介いたします(Cancer Epidemiol Biomarkers Prev.2019 Sep;28(9):1461-1468)。

 

アクリルアミドとは

アクリルアミドは、紙の強度を高める紙力増強剤や接着剤などの原材料として利用されている化学物質で、国際がん研究機関(IARC)では、ヒトに対して、おそらく発がん性がある物質とされています(IARC – INTERNATIONAL AGENCY FOR RESEARCH ON CANCER)。近年、アスパラギンと還元糖という栄養素を含む食品を120℃以上の高温条件下で加工・調理すると、化学反応を起こすことなどによってアクリルアミドが生成され、食品中にも含まれていることがわかりました。

2016年4月5日に食品安全委員会では、過去に行われた人を対象とした疫学研究や動物実験の結果を総合的にみて、日本人における食事からのアクリルアミド摂取による発がん性については、懸念がないとはいえないとし、日本での研究も求められています。(食品安全委員会評価書、加熱時に生じるアクリルアミドに関する情報)。

食事由来のアクリルアミドと食道がん・胃がん・大腸がんとの関連については、欧米におけるヒトを対象とした疫学研究は複数あるものの、日本をはじめとしたアジア諸国からの報告はありません。また、欧米における複数の疫学研究をまとめたメタアナリシスでは、アクリルアミド摂取と食道がん・胃がん・大腸がんの関連はなかったとしているものの、これらのがん罹患に関わる要因や種類による詳細な分析については、研究が不足しています。さらに、日本における食物由来のアクリルアミドの主な供給源は、多い順に、コーヒーと緑茶、菓子類、野菜、ジャガイモですが、欧米諸国ではジャガイモ由来の食品、小麦製品、コーヒーです。 したがって、供給源が異なるさまざまな国や地域で、アクリルアミド摂取ががんに及ぼす影響を調べる必要があります。本研究では、食事由来のアクリルアミド摂取と食道がん、胃がん、大腸がんのリスクとの関連性を調べることを目的としました。

 

アクリルアミド摂取量の推定方法

アクリルアミドの摂取量は、食物摂取頻度調査票(FFQ)という比較的簡易なアンケートを用いて、各個人の習慣的な摂取量を推定しました。この推定方法から算出されたアクリルアミド摂取量は、28日間の食事記録調査(DR)によるアクリルアミドの総摂取量と比較され、疫学研究を行うために必要な、ある程度の正確さがあることを確認しています。(食事調査票から得られたアクリルアミド摂取量の正確さについて

 

アクリルアミド摂取量とその後の食道がん・胃がん・大腸がん罹患に関連はなかった

本研究の追跡調査中に、391人の食道がん(追跡期間15.5年)、2,218人の胃がん(追跡期間15.3年)と2,470人の大腸がん(追跡期間15.3年)罹患が確認されました。5年後調査時のアンケートの回答から計算したアクリルアミド摂取量について、対象者を5つのグループ(Q1, Q2, Q3, Q4, Q5)に分けて、その後のがん罹患を比較しました。アクリルアミド摂取量が最も低いグループ「Q1」を基準とし、それ以外のグループのがん罹患リスクを比較したところ、アクリルアミド摂取量と食道がん・胃がん・大腸がん罹患のいずれも統計学的有意な関連は見られませんでした(図1,2,3)。

図1 アクリルアミド摂取量と食道がん罹患リスク

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※年齢、性別、地域、喫煙、飲酒、BMI、身体活動、野菜・果物・乳製品摂取量によって統計学的に調整

図2 アクリルアミド摂取量と胃がん罹患リスク

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※年齢、性別、地域、喫煙、飲酒、BMI、身体活動、野菜・果物・塩臓魚摂取量によって統計学的に調整

図3 アクリルアミド摂取量と大腸がん罹患リスク

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※年齢、性別、地域、喫煙、飲酒、BMI、身体活動、野菜・果物・肉・乳製品摂取量によって統計学的に調整

 

この研究結果について

日本人のアクリルアミド摂取量は欧米に比べて少ないことが報告されており(食品安全委員会評価書、加熱時に生じるアクリルアミドに関する情報)、本研究の結果から相対的にアクリルアミド摂取量の少ない日本人でも関連がなかったことが示されました。
その一方で、結果の解釈には以下の点を考慮する必要があります。一つ目に、アクリルアミド摂取量の妥当性は確認されていますが、簡易的なアンケートを用いてアクリルアミド摂取量を推定したため、実際の摂取量を反映していない可能性があり、関連をみえにくくさせた可能性があります。二つ目に、食道がんにおいては罹患数が少なかったため、統計学的に十分な評価ができなかった可能性もあり、さらなる研究が必要です。

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