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多目的コホート研究(JPHC Study)

糖尿病既往者における肥満度(BMI)と死亡リスクとの関連

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、東京都葛飾区、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の11保健所(呼称は2019年現在)管内にお住まいだった方々のうち、研究開始時のアンケートで糖尿病があると回答し、過去にがんや循環器疾患になったことのない40~69歳の男女約4600人を、平成26年(2014年)末まで追跡した調査結果にもとづいて、糖尿病既往者における肥満度(BMI, Body mass index)と全死亡・主要死因死亡との関連を調べました。その研究結果を論文発表しましたので紹介します(Diabetes Res Clin Pract. 2020年6月)。

わが国における糖尿病患者数は近年増加しています。肥満は、糖尿病、高血圧や循環器疾患、さらに死亡リスクを上げることが分かっています。しかし、糖尿病患者における肥満と死亡との関係について、これまでの研究結果は一致しておらず、よくわかっていません。これまで糖尿病患者の肥満と死亡率の関連を評価した研究の多くは、欧米諸国で行われています。しかし、日本人のBMI(体重(kg)÷[身長(m)]2)の分布は欧米人と比較してやせている方に偏っており、アジア人の糖尿病患者の特徴は欧米人と異なることも報告されています。そこで、日本人において、糖尿病既往者の肥満度と死亡リスクについて検討しました。

調査開始時のBMIを7つのグループ(BMI:14-18.9、19.0-20.9、21.0-22.9、23.0-24.9(基準)、25.0-26.9、27.0-29.9、30.0kg/m2以上)に分けて、BMI 23.0-24.9のグループを基準として、10年間の死亡率を比較しました。
解析の際には、年齢、性別、地域、高血圧の既往歴、喫煙状況(非喫煙、過去喫煙、現在喫煙)、アルコール摂取量(なし、機会飲酒、1~149g/週、1~150g/週以上)、余暇の身体活動(なし、月1~3回、週1日以上)、20歳以降の体重変化(5kg未満、体重増加5kg以上、体重減少5kg以上)で統計学的に調整しました。

 

糖尿病既往者では、やせていても、太っていても死亡リスクが増加していた

BMIが30 kg/m2以上の太っているグループで死亡全体のリスクが増加していたことが分かりました(図1)。死亡原因ごとにみると、太っているグループでは、がんによる死亡リスクや心疾患による死亡リスクが増加していました。また、BMIが19 kg/m2未満のやせのグループでは統計学的に有意ではないものの、死亡全体のリスクが増加していました(ハザード比1.25、95%信頼区間0.9997–1.56)。糖尿病既往者のBMIと脳血管疾患と呼吸器疾患による死亡リスクとの統計学的に有意な関係はみられませんでした。さらに、調査時点において、既に、死に至る病気などを持っていたために体重が減少するなどの影響を排除するため、調査開始後3年間に死亡した人を除いて検討しましたが、結果は変わりませんでした。

図1.糖尿病既往者におけるBMIと死亡リスクとの関連

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糖尿病既往者で喫煙歴のある男性では死亡リスクが増加していた

次に、男女別に分けて、糖尿病既往者のBMIと死亡リスクとの関係を調べてみると、男性ではBMIが19kg/m2未満のグループとBMIが30kg/m2以上のグループで、死亡リスクが増加していることが分かりました(図2)。一方、女性では、BMIと死亡リスクには、統計学的に有意な関連がみられませんでした。
さらに、喫煙は糖尿病の治療の妨げとなるだけでなく、合併症や他の病気のリスクが高まることが分かっています。喫煙歴があるグループ(現在喫煙もしくは過去喫煙)と喫煙歴がないグループで調べてみると、喫煙歴があるグループで同様に死亡リスクの増加がみられました。

図2.性別、喫煙歴別の糖尿病既往者におけるBMIと死亡リスクとの関連

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この研究について

この研究では、糖尿病をもっている人の中でも、特に男性において、やせている(BMI19kg/m2未満)、または太っている(BMI30kg/m2以上)グループで、死亡リスクが増加していたことが明らかになりました。私たちは以前、糖尿病の有無に関わらず、やせていても太っていても死亡リスクが高かったという研究結果 (肥満指数と死亡率との関係について) を発表しています。今回の研究結果から、糖尿病をもっている人でも、適正体重を維持することが重要であることが示されました。やせは感染症や呼吸器疾患などのリスクが高いこと、肥満は肥満であること自体が、高血圧や脂質代謝異常、高血糖などのリスク因子であり、循環器疾患の死亡リスクを増加することが考えられます。また、この研究結果から、男性で糖尿病を持っている人の死亡リスクの増加には、やせや太っていることに加えて、喫煙もリスク因子であることが示されました。

男女別の結果から、男女で違いが生じるメカニズムについてはよくわかっていませんが、1つの可能性として、糖尿病の既往者は男性に比べて女性の対象者が少なく(男女比はおおよそ2:1)、統計学的に関連性を十分評価できなかったことが考えられます。

この研究の限界点には、糖尿病があるかどうかをアンケート調査の自己申告によって調べているため、糖尿病を持っている人を100%把握できていないことが挙げられます。また、長期にわたり糖尿病を患っている場合や、糖尿病の治療がうまくいっていない場合にやせることがありますが、この研究では調査開始時点の糖尿病既往者の罹患期間や重症度について考慮できていないため、今後、さらなる研究が必要です。

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