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多目的コホート研究(JPHC Study)

血中n-3系多価不飽和脂肪酸濃度とうつ病との関連について

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)に長野県佐久保健所管内の南佐久郡8町村にお住まいだった40~69歳の約1万2千人のうち、平成26-27年(2014-15年)に行った「こころの検診」に参加した1213人のデータにもとづいて、血中n-3系多価不飽和脂肪酸とうつ病との関連を横断的に調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します(Sci Rep 2021年2月Web公開)。

n-3系多価不飽和脂肪酸とうつ病との関連については世界各国からの報告があり、複数の介入研究をまとめたメタアナリシスでは、n-3系多価不飽和脂肪酸の摂取がうつ症状の改善に有用であるという結果が報告されています。私たちはこれまでに、食事アンケート調査から得られた魚介類の摂取量やn-3系多価不飽和脂肪酸の摂取量とうつ病との関連を検討しており、その結果、魚介類・n-3系多価不飽和脂肪酸摂取とうつ病には、ある一定量まではリスク低下と関連がみられましたが、それ以上摂ると影響がみられなくなることを報告しています(魚介類・n-3不飽和脂肪酸摂取とうつ病との関連について)。しかし、血中n-3系多価不飽和脂肪酸濃度とうつ病との関連については、魚摂取の多いアジア人を対象とした報告はなく、よくわかっていません。今回の研究では血中n-3系多価不飽和脂肪酸濃度とうつ病との関連を調べました。

「こころの検診」に参加した1213人から収集した血液からn-3系多価不飽和脂肪酸濃度を測定し、濃度が低い人から並べ、人数が均等になるよう4グループに分け(4分位)、年齢、性別、うつ病の既往歴、がんの既往歴、脳卒中の既往歴、心筋梗塞の既往歴、糖尿病の既往歴を統計学的に調整した後、血中脂肪酸濃度が最も低いグループを基準とした場合の、他のグループのうつ病のリスクを横断的に比較しました。 

 

血中n-3系多価不飽和脂肪酸とうつ病リスクとの間には関連がみられなかった

研究に参加した1213人のうち、103人が精神科医によってうつ病と診断されました。血中総n-3系多価不飽和脂肪酸、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)、ドコサペンタエン酸(DPA)、総n-6系多価不飽和脂肪酸、リノール酸、アラキドン酸(AA)、n-6/n-3比、AA/EPA比、AA/DHA比、のいずれもうつ病リスクと関連はみられませんでした(図1は例としてEPA、DHA、DPAの結果です)。

図1.血中多価不飽和脂肪酸濃度とうつ病リスク

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前回の研究(魚介類・n-3不飽和脂肪酸摂取とうつ病との関連について)との違いについて

私たちの、以前の研究では、食事アンケート調査から算出した魚介類・n-3系多価不飽和脂肪酸摂取とうつ病との関連について、ある量でリスクが下がり、それ以上摂ると影響がみられなくなることを示しましたが、今回、血中脂肪酸濃度とうつ病のリスクとの間には関連はみられませんでした。前回の研究と今回の研究の大きな違いは、2つあります。1つ目は、前回は脂肪酸摂取量を評価した時点が、うつ病の診断の約20年前であったのに対し、今回は血中の脂肪酸濃度を評価した時点とうつ病の診断が同時期であり、うつ病になったことにより、食習慣が変わったという逆の因果関係を評価している可能性があります。2つ目は、n-3系多価不飽和脂肪酸の評価方法で、前回は食事アンケート調査から算出した摂取量を用いているのに対して、今回は血中脂肪酸濃度を用いた生体レベルでの検討をしている点です。n-3系多価不飽和脂肪酸の評価については、食事アンケート調査よりも生体試料の測定の方が、記憶に依存しない分、より客観的な指標であると言われていますが、短期間の摂取量しか反映していなかったかもしれません。このような理由により、結果に違いが現れ、血中脂肪酸濃度とうつ病のリスクとの間には関連はみられませんでした。 

 

さらなる研究結果の蓄積が必要

本研究では、該当地域の14%の対象者しか調査に参加していないため、示された結果は一般的な集団と異なる可能性があり、解釈には注意が必要です。また、横断研究であるため、因果関係を証明することは困難です。さらに、血中n-3系多価不飽和脂肪酸濃度を測定した時点での喫煙、飲酒、身体活動といった生活習慣や、炎症マーカーや脳のMRI検査などのデータはありませんので、今後はそれらを考慮したさらなる研究結果の蓄積が必要と考えられます。

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