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多目的コホート研究(JPHC Study)

女性関連要因と非喫煙女性における肺がん罹患との関連について―組織型別の検討-

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10保健所(呼称は2019年現在)管内にお住まいだった、40~69歳のたばこを吸ったことがない(非喫煙)女性約4万2千人の方々を平成25年(2013年)まで追跡した調査結果にもとづいて、女性関連要因と肺がん罹患との関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します(Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2021年4月WEB先行公開)。

肺がんの最大の原因は「喫煙」ですが、我が国の女性の大半は喫煙しておらず、喫煙していないひとからも肺がんは発生しています。男性と比べて、女性の肺がんは、非喫煙者の割合が多く、腺がんという組織型の肺がん(肺腺がん)が多いことが報告されています。この男女差の要因の一つとして、女性特有の生殖関連要因やホルモン剤使用が考えられています。私たちの研究では、過去に、生殖関連要因やホルモン剤使用と女性の肺がんとの関係について、初経から閉経までの期間が長い人、また、ホルモン剤を使用している人で肺がんの罹患リスクが高いことを報告(生殖関連要因やホルモン剤使用と女性の肺がんとの関係について)しましたが、この時の追跡期間は8~12年と短く、症例数が153名と少なかったことから、肺がんの組織型別に検討を行うことができませんでした。
そこで、今回は、追跡期間を21年に延長し、研究開始時に行ったアンケート調査の結果を用いて、初経年齢や出産回数などの女性関連要因によるグループ分けを行い、肺がんに罹患するリスクとの関連を組織型別に解析しました。さらに、肺がんの最大の原因となる「喫煙」を取り除くために、非喫煙女性に限定して検討しました。

 

女性関連要因は肺腺がんに関連する

追跡期間中に400人の女性が肺がんに罹患しました(そのうち、肺腺がんは305人でした)。全体では、女性関連要因と肺がんとの関連はみられませんでしたが、組織型別にみると、閉経年齢が早い(47歳以下)女性と比べて、遅い(51歳以上)女性のほうが肺腺がんのリスクが1.41倍高く、また、初経から閉経までの期間が短い(32年以下)女性と比べて、長い(36年以上)女性のほうが肺腺がんのリスクが1.48倍高いという関連がみられました。さらに、閉経前の女性と比べて、自然に閉経した女性で1.99倍、外科的手術により閉経した女性で2.75倍、肺腺がんのリスクが高いという関連がみられました。(図)。
一方、授乳の経験がある女性は、肺腺がん以外の肺がんになるリスクが0.51倍低いという関連がみられました(図なし)。
それ以外に、出産の有無、出産回数、初経年齢、所産年齢、月経周期についても検討しましたが、関連はみられませんでした(図なし)。

図 女性関連要因と肺腺がん

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※年齢、地域、居住地(市・それ以外)、BMI、飲酒、受動喫煙、余暇の運動、肺がん家族歴、喘息の既往歴で調整、(加えて、各項目以外の他の女性関連要因を調整)

 

今回の結果からわかること

今回の研究では、初経から閉経までの期間が長いことや、閉経年齢が遅いことが、肺がんのリスク上昇と関連がみられました。
正常の肺や肺がんの組織には、女性ホルモンであるエストロゲンが結合するエストロゲン受容体があることから、肺がんの発生にはエストロゲンが関係していると考えられています。閉経すると、女性ホルモンであるエストロゲン濃度が低くなりますが、初経から閉経までの期間が長いことや、閉経年齢が遅いことは、エストロゲン濃度が高い状態が続く状態と考えられ、肺がんのリスク上昇と関連がみられたことが考えられました。また、肺がんの組織型によって、エストロゲン受容体の分布が異なっていることが報告されていることから、肺腺がんとの関連がより明確であった可能性があります。
本研究で正の関連がみられた閉経年齢と肺腺がんとの関連について、先行研究では関連がない、または、閉経年齢が高いとリスクが低下することが報告されており、結果が異なっていました。また、初経から閉経までの期間や閉経状態は、肺腺がんの罹患リスクの上昇と関連がみられましたが、これらの要因についても、先行研究が少なく、結果も一致していませんでした。先行研究の数も限られていますが、関連が異なった理由として、人種や生活習慣の違いなどが考えられます。
私たちの以前の研究では、ホルモン剤を使用することにより、肺がんのリスクが高かったという関連を報告していましたが、今回は、ホルモン剤使用と肺がん・肺腺がんとは関連がみられませんでした。しかし、複数の疫学研究をまとめたメタアナリシスにおいて、ホルモン剤の種類により肺がんとの関連が異なることが報告されており、本研究ではホルモン剤の種類を聞いていないことから、さらなる研究が必要です。

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