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現在までの成果

大気汚染(PM2.5)と死亡との関連について

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、東京都葛飾、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の11保健所(呼称は2019年現在)管内にお住まいだった40~69歳の方々で、さらに、追跡期間中に一度も引っ越したことがない約8万人の男女を、平成25年(2013年)まで追跡した調査結果にもとづいて、大気汚染(PM2.5)と死亡との関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します(BMC Public Health. 2022年3月公開)。

PM2.5とは、大気汚染物質の一つで、大気中に浮遊する粒子状物質のうち2.5μm以下の大きさの物質のことです。これまでの多くの研究から、PM2.5と死亡リスクとの関連について報告されており、国際がん研究機関(IARC)では、PM2.5は肺がんにおいて、「ヒトに対して発がん性がある物質」と判定しています。また、アメリカ心臓協会では、循環器疾患に関与している要因であると報告しています。これまでに報告された20のコホート研究結果をまとめたメタアナリシスでは、PM2.5濃度が高いと全死亡、循環器疾患死亡、肺がん死亡、呼吸器疾患死亡のリスクがあがると報告されています。しかし、これまでの研究は欧米からの報告が多く、アジアからの報告はほとんどありません。加えて、多くの国でPM2.5の濃度が下がってきていますが、WHOガイドライン(2005)で推奨されている年間平均10μg/m3以下でもリスクの上昇がみられると報告されています。
そこで、我が国の、比較的PM2.5濃度の低い地域において、PM2.5濃度と死亡リスクとの関連について調べました。

私たちが過去に報告した結果(「長期的な粒子状物質への曝露と循環器疾患の発生および死亡との関連について」)では、粒子状物質(PM10)の濃度があがると虚血性心疾患死亡のリスクがあがる傾向にあることを報告しましたが、当時は一般環境大気測定局の濃度を用いており、同じ保健所管内に居住している対象者は、すべて同じ濃度の粒子状物質に曝されているという仮定に基づいて研究を行っていました。
今回は、衛星データを元に1km×1kmの範囲で推計された、1998年から2013年までの年間平均のPM2.5の濃度を、対象者の居住地に割り当てたことで、対象者が受けたPM2.5の濃度をより正確に評価して研究を行いました。
PM2.5と死亡リスクとの解析に当たり、性別、年齢、地域、喫煙状況、飲酒状況、体格、職業、コーヒー摂取量、受動喫煙、循環器疾患・がん・糖尿病の既往歴を調整し、これらの違いによる影響をできるだけ取り除きました。

 

PM2.5濃度が上昇すると循環器疾患死亡リスクがあがる

本研究の対象地域における年間平均PM2.5濃度は11.6μg/m3でした。また、追跡期間中(1990-2013年)に、17,838人の死亡(そのうち、がん死亡7,285人、循環器疾患死亡4,537人、呼吸器疾患死亡1,743人)が確認されました。
今回の研究では、1998年から2013年の年間平均PM2.5濃度と、全死亡との関連は見られませんでしたが、PM2.5濃度が1μg/m3上昇するごとの循環器疾患死亡のハザード比(95%信頼区間)は、1.23(1.08-1.40)であり、PM2.5濃度が上昇すると循環器疾患死亡リスクが統計学的有意に高いという関連がみられました。肺がん死亡や呼吸器疾患死亡との関連は見られませんでした(図)。
また、今回の研究では、追跡開始初期の1990年から1997年のPM2.5濃度が得られなかったことから、その影響は少ないことを確認するために、1998年からの始めの5年間の年間平均PM2.5濃度を累積平均曝露濃度として、2003年から2013年までの死亡リスクを解析しましたが、結果は同じでした(図なし)。

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図 PM2.5濃度と死因別死亡リスク

 

この研究の結果から

今回の研究では、比較的PM2.5濃度が低い地域でも、PM2.5濃度があがると循環器疾患死亡のリスクが高くなる、という関連が見られました。この結果は、2020年に報告されている複数のコホート研究をまとめたメタアナリシスの結果とも一致しており、PM2.5による酸化ストレスの増加、血管内皮機能障害や動脈硬化の促進作用により、循環器疾患死亡のリスクをあげると考えられました。一方で、多くの研究から、PM2.5濃度があがると肺がんリスクが高くなるという関連が報告されているにも関わらず、今回の研究では関連はみられませんでした。これは、今回の研究が、先行研究と比較して、濃度が低い地域での研究だったことが考えられ、低いレベルの濃度では肺がんへの影響が見いだせなかった可能性があります。
今回の研究の限界として、居住地のPM2.5濃度を用いており、職場など他の生活の場所でのPM2.5濃度については考慮できていないこと、職業以外の社会経済的要因が調整できていないことや、生活習慣の変化を考慮できていないことがあげられます。

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