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多目的コホート研究(JPHC Study)

ビタミンDの食事摂取とビタミンD受容体発現量で細分類された大腸がん罹患リスクとの関連について

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防や健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)に、秋田県横手、沖縄県中部にお住まいだった40~59歳の方々のうち、ベースライン、5年後、または10年後のいずれかのアンケート調査にご回答くださった、男女約2万人の方々を、平成26年(2014年)まで追跡した結果に基づいて、ビタミンDの食事摂取と腫瘍組織中のビタミンD受容体発現量で細分類された大腸がん罹患リスクとの関連を調べた結果を論文発表しましたので紹介します(J Gastroenterol. 2024年6月Web先行公開)。

 ビタミンDは、がん抑制能を有することが、動物を用いた基礎研究などから示されています。しかし、JPHC研究を含む疫学研究において、ビタミンD摂取や血中ビタミンD濃度と大腸がん罹患リスクとの関連を調べた先行研究では、ビタミンDが大腸がんを予防するという期待された結果は得られませんでした(カルシウム、ビタミンD摂取と大腸がん罹患との関連について)。
 そこで、私たちは、ビタミンDが、組織中のビタミンD受容体に結合して、がんを抑制するというメカニズムに着目しました。腫瘍組織には、ビタミンD受容体を多く発現しているものと、あまり発現していないものがあり、腫瘍組織におけるビタミンD受容体の発現量はさまざまです。本研究では、腫瘍組織中のビタミンD受容体発現量を考慮して、ビタミンDの大腸がんへの影響を検討することとしました。

 本研究では、追跡調査で判明した大腸がんの腫瘍組織を収集し、がん細胞およびがん細胞を取り囲む間質における、ビタミンD受容体の発現量を定性分析しました。その結果に基づき、ビタミンD受容体を高発現しているサブタイプと低発現しているサブタイプに大腸がんを細分類しました(図1)。そして、食物摂取頻度調査への回答から推計されたビタミンD摂取量により対象者を3つのグループ(低、中、高)に分け、サブタイプごとに大腸がん罹患リスクを検討しました。
 解析にあたっては、年齢、性別、体格指標、喫煙状況、飲酒状況、身体活動量、糖尿病の既往の有無などを統計学的に調整し、これらによる影響をできるだけ取り除きました。更に、ビタミンD摂取による大腸がん罹患リスクへの影響が、大腸がんのサブタイプごとに異なるかどうか(異質性)を統計学的に検討しました。

 

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図1. 免疫組織染色によりビタミンD受容体発現量を分析した大腸腫瘍組織

※間質:固有の細胞集団を支持する結合組織、ここではがん細胞を取り囲んでいる組織
※免疫組織染色:ビタミンD受容体に対する抗体を用いて、組織中のビタミンD受容体を呈色して可視化する手法(今回は茶褐色に発色)

ビタミンD摂取により間質でビタミンD受容体を高発現している大腸がんの罹患リスクが低下する

 追跡期間中に646例の大腸がん罹患が確認されました。そのうち、腫瘍組織およびビタミンD摂取量などの情報が得られた、507例について解析を行いました。解析対象となった症例における免疫組織染色の結果、がん細胞中におけるビタミンD受容体高発現大腸がんは421例、低発現大腸がんは86例でした。間質におけるビタミンD受容体高発現大腸がんは63例、低発現大腸がんは444例でした。
 ビタミンD摂取と全大腸がん、および、がん細胞中のビタミンD受容体発現量に基づいた大腸がんサブタイプとの関連は認められませんでした。一方で、間質におけるビタミンD受容体発現量が高い大腸がんで、ビタミンD低摂取のグループに比べて、高摂取のグループで罹患リスク低下が観察されました。間質のビタミンD受容体発現量が低い大腸がんでは、その関連は見られませんでした。間質のビタミンD受容体発現量により、ビタミンD摂取の大腸がんに対する効果が異なることが示唆されました(異質性P値=0.02)(図2)。

 

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図2. ビタミンD摂取と全大腸がんおよびサブタイプごとの大腸がん罹患リスクとの関連

※ハザード比は、ビタミンD摂取量が低いグループと比較した高いグループの値を示します。

 

まとめ

 本研究では、ビタミンD摂取量の高いグループで、間質におけるビタミンD受容体の発現量が高いタイプの大腸がん罹患リスクの低下が観察されました。一方、それ以外の大腸がんサブタイプとの関連は認められませんでした。これらの結果から、ビタミンDの大腸がんに対する予防効果は、腫瘍組織中の間質におけるビタミンD受容体発現量に依存する可能性が示唆されました。

 先行研究において、ビタミンDと大腸がん罹患との関連を明らかにする米国の疫学研究では、大腸がん細胞中のビタミンD受容体発現量を考慮したところ、大腸がん細胞中のビタミンD受容体発現量に関係なく、予測された血中ビタミンD濃度と大腸がん罹患リスク低下との関連が報告されています。本研究でも大腸がん細胞におけるビタミンD受容体発現量により、ビタミンDの大腸がんに対する効果が異なることは示されませんでしたので、ビタミンDの効果は、大腸がん細胞中のビタミンD受容体に依存していないのかもしれません。その一方で、スペインの大腸がん罹患者を対象とした研究では、がん細胞中ではなく、間質でビタミンD受容体を高発現している大腸がんにおいて、予後が良いことが報告されています。本研究でも、ビタミンDの大腸がんに対する効果において、がん細胞よりも、間質中のビタミンD受容体発現量が重要であることを示されました。

 本研究では、他の観察研究と同様に、未知の交絡因子の影響については考慮できないこと、追跡調査で判明した全ての大腸がんの組織は収集できていないこと(未収集の大腸がん約13%)、間質でビタミンD受容体を高発現している大腸がんの数が少ない(63例)ことなどが、研究の限界点として挙げられます。今後、さらなる研究の蓄積が必要です。

 

 多目的コホート研究の参加者からご提供いただいた血液などの生体試料を用いた研究は、国立がん研究センターの倫理審査委員会の承認を得た研究計画をもとに、「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」などに則って実施されています。国立がん研究センターにおける研究倫理審査については、公式ホームページをご参照ください。

 

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