多目的コホート研究(JPHC Study)
体格と頭頚部がん罹患リスクについて
―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―
私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防や健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、新潟県長岡、茨城県水戸、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10保健所(呼称は2019年現在)管内にお住まいだった方々のうち、がんになっていなかった40歳から69歳の男女102,668人を対象に実施したアンケート調査と、その方たちを平成25年(2013年)まで追跡した調査結果に基づいて、体格と頭頚部がん罹患との関連を調べました。その研究成果を論文発表しましたので紹介します(J Epidemiol. 2024年8月Web先行公開)。
頭頚部がんは、近年、我が国において増加傾向であることが報告されており、2015年には男性で10万人あたり12.42人、女性で3.71人が罹患しています。世界がん研究基金の報告では、体重と身長から算出される体格指数(体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)、BMI)が高いと頭頚部がんのリスクが高まるとしていますが、頭頚部がんに関わる複数の疫学研究を取りまとめたメタアナリシスでは、BMIが低いほうが頭頚部がんのリスクが高いと報告しています。一方で、非喫煙者ではBMIが30 kg/m2以上で頭頚部がんのリスクが高くなることが報告されている研究もあれば、喫煙者ではBMIが21 kg/m2未満でリスクが高くなることが報告されており、BMIと頭頚部がんとの関連は、喫煙状況で異なる可能性が考えられます。
身長と頭頚部がんとの関連についてのメタアナリシスにおいては負の関連が報告されていますが、メンデルランダム化という手法を使用した研究結果では正の関連を報告しているものもあり、必ずしも一致した結果が得られていない状況です。
これまでの研究は欧米からの報告が多く、我が国において体格と頭頚部がんリスクの関連を調べた大規模な疫学研究はありませんでした。そこで、本研究では、BMIおよび身長と頭頚部がんリスクとの関連を調べました。
BMIは、アンケート調査の回答から得られた体重と身長から算出し、6つのグループ(18.5kg/m2未満、18.5-20.9 kg/m2、21.0-22.9 kg/m2、23.0-24.9 kg/m2、25.0-27.4 kg/m2、27.5kg/m2以上)に分けました。身長は、データを基に人数がなるべく均等になるよう低い順から4つに分けました。
そして、BMIでは23.0-24.9kg/m2のグループを、身長では2番目のグループを基準として、その他のグループのその後の頭頚部がんリスクを比較しました。解析では、年齢、性別、地域、飲酒習慣、熱い飲食物の好みを統計学的に調整し、これらの影響をできるだけ取り除きました。
BMIと頭頚部がんリスクとの間にはU字の関係がある
平均18.7年の追跡期間中に、311人が頭頚部がんに罹患しました。解析の結果、全体では、BMIが低いグループでは統計学的有意に頭頚部がんリスクが高いことが示されました。また、BMIが高いグループでは統計学的有意ではありませんでしたが、リスクが高い傾向がみられました。男女別にみると、男性でのみ、BMIが低いグループでリスクが高い結果を示し、BMIが高いグループではリスクが高い傾向がみられました。女性では、BMIが低いグループでのみ統計学的有意ではないもののリスクの上昇がみられました(図1)。
図1. BMIと頭頚部がんとの関連
喫煙状況別にみた場合、非喫煙者ではBMIが低いグループでも、高いグループでも頭頚部がんの罹患リスクが高いというU字の関係がみられました。喫煙者では、BMIが低いグループでリスクは上昇していたものの、BMIが高いグループでは関連はみられませんでした。(図2)。
身長と頭頚部がんの罹患リスクとは、男女ともに、関連がみられませんでした(図なし)。
図2. 喫煙状況別に見たBMIと頭頚部がんとの関連
今回の研究結果について
本研究では、高血圧、脂質異常、喫煙、糖尿病などのリスク因子を有していることが、将来的な循環器疾患の発症に大きく影響していることが明らかになりました。
リスク因子があった場合でも、若い人であれば10年間に循環器疾患を発症する絶対リスクはあまり高くなりませんが、生涯リスクで考えれば、45歳の男性では4人に1人が、女性では6人に1人が循環器疾患を発症すると推定されます。循環器疾患の予防のためには、生活習慣の改善に基づくリスクコントロールが最も重要であり、本研究は性別にかかわらず、若いうちからリスクを減らすことのメリットを示していると言えます。
なお、今回の研究では、対象地域に都市部が含まれていないこと、および85歳を超える対象者数が少なく、生涯リスクと言えども85歳時までの評価であったことなどが限界点としてあげられます。