多目的コホート研究(JPHC Study)
日本人男性における食事由来の炎症修飾能と大腸がん罹患との関連について
―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―
私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防や健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10保健所管内(呼称は2025年現在)にお住まいだった、40~69歳の方々のうち、研究開始から5年後に行った食事調査票に回答いただいた45~74歳の約3万9千人の男性を平成25年(2013年)まで追跡した調査結果にもとづいて、食事由来の炎症修飾能の指標であるDietary Inflammatory Indexと大腸がん罹患との関連を調べました。その研究結果を論文発表しましたので、ご紹介します(Nutrients. 2026年1月公開)
Dietary Inflammatory Indexとは
食生活は炎症状態に影響を及ぼす生活習慣因子の一つと考えられています。Dietary Inflammatory Index(以下、DII)は、食事が炎症状態に与える影響を総合的に評価する指標として開発されました。すなわち、DIIスコアが負の値であるほど炎症を抑える食事であると評価され、正の値であるほど炎症を促進する食事であると評価されます。DIIによる食事評価の妥当性は男性のみで認められたため(https://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/8448.html)、本研究では、日本人女性における検討はできませんでした。
炎症状態は大腸がんの発生や進展に関与すると考えられており、欧米諸国では、DIIスコアの高い炎症性の食事(炎症を促進する食事)が大腸がんのリスク因子となる可能性が報告されています。しかし、日本を含む東アジアからの報告はほとんどありませんでした。また、近年では、炎症性の食事と肥満、喫煙、飲酒、運動不足などの生活習慣が組み合わさることで、大腸がんのリスクがさらに上昇する可能性が報告されています。そこで、本研究では、日本人男性におけるDIIスコアと大腸がん罹患との関連および生活習慣との組み合わせによる影響(交互作用)について検討しました。
日本人男性では、食事の炎症スコアが高いほど結腸がんのリスクが高かった
平均14.1年の追跡期間中に、1415人の大腸がん罹患が確認されました。DIIのスコアが高いほど、大腸がんの罹患リスクが高い傾向がみられましたが、統計学的に有意ではありませんでした(傾向性P値=0.08)(図1)。また、DIIのスコアが高いほど、結腸がんリスクが高くなっていました(傾向性のP値=0.03)。さらに部位別に検討すると、近位結腸がんではリスクが高くなっていましたが(傾向性P値=0.045)、遠位結腸がんリスクでは関連を認めませんでした(傾向性P値=0.35)。また、直腸がんとの関連は認めませんでした(傾向性P値=0.99)。
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図1. DIIと大腸がん罹患リスクとの関連
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次に、生活習慣の組み合わせによる交互作用を検討したところ、飲酒者ではDIIスコアが高いほど、近位結腸がんのリスクが統計学的有意に上昇しましたが、非飲酒者では有意な関連はみられず、飲酒習慣の有無によって影響が異なる可能性が示されました(図2)。その他の生活習慣(BMI、喫煙、運動)では、交互作用はみられませんでした(図なし)。
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図2. DIIと大腸がん罹患リスクにおける飲酒習慣の有無による交互作用
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この研究結果からわかること
本研究から、日本人男性においてDIIスコアが高いほど結腸がん罹患リスクが高いことが示され、これまで欧米を中心に報告されてきた知見と同様な結果でした。この結果は、DIIによって評価される炎症性の食事が、欧米とは異なる食文化を持つ集団においても大腸がん罹患のリスクを高める可能性を示唆しています。現在、日本は大腸がんの罹患率が高い国の一つであり、今回の知見は、他の国際的な高リスク集団においても有益な情報となると考えられます。
一方で、直腸がんについては明確な関連は認められませんでした。部位による違いがみられた理由として、結腸と直腸における、炎症に対する感受性の違いを示唆していると考えられます。さらに、ビタミンC、葉酸、マグネシウムといったDIIを構成するいくつかの栄養素に焦点をあてた先行研究でも、結腸がんのリスク低下と関連があっても直腸がんとの関連を認めず、本研究と同様の傾向がみられていることから、本研究の結果はいくつかの栄養素の複合的な効果を表している可能性があります。
また、飲酒習慣の有無により、DIIと大腸がん罹患リスクとの関連に違いがみられました。アルコールは腸上皮のバリア機能を損傷して粘膜免疫を引き起こし、腸の炎症、さらには全身の炎症を引き起こすと考えられています。さらに、アルコールは栄養素の代謝に影響を及ぼすことも知られており、飲酒者では葉酸やマグネシウムなどの微量栄養素の摂取量が少ないと、大腸がんのリスクが高まることも報告されています。アルコールによる調整しきれていない交絡因子がある可能性には留意する必要がありますが、飲酒者においては炎症性の食事が大腸がんの罹患リスクをさらに高めた可能性が考えられます。
本研究では、追跡期間中に起こりうる食事の変化は考慮できていません。さらに解析では、関係する要因を可能な限り統計学的に取り除きましたが、未測定の交絡因子の影響を除き切れていない可能性があります。今後は、食事変化の影響を考慮した研究や、女性を対象とした検討を含めた、さらなる研究が必要です。
国立がん研究センターがん対策研究所では、私たちの研究成果を含む、これまでの多くの研究結果から、日本人のためのがん予防法や健康寿命延伸のための提言をまとめています。
下記もご覧ください。
日本人のためのがん予防法
https://epi.ncc.go.jp/can_prev/index.html
https://epi.ncc.go.jp/files/02_can_prev/cancer_prevention_brochure.pdf
健康寿命延伸のための提言
https://www.ncc.go.jp/jp/icc/cohort/040/010/index.html

