多目的コホート研究(JPHC Study)
食生活パターンと大腸がんとの関連について
―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果―
私たちは、いろいろな生活習慣と、がん、脳卒中、心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための「多目的コホート研究」を行っています。 平成2年(1990年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部(呼称は2004年現在)の4地域にお住まいの、40~59歳の男女約4万人の方々に、食事や喫煙などの生活習慣に関するアンケート調査を実施しました。その後10年間の追跡調査にもとづいて、食生活のパターンと大腸がんの発生率(リスク)との関係を調べた結果を、専門誌で論文発表しました(Intrernational Journal of Cancer 2005年115巻790-798ページ)。この前向き研究によって、「欧米型」食生活と「伝統型」食生活で、女性の大腸がんのリスクが高くなることが示されました。
日本人の食生活パターンは、男女それぞれ3つに分けることができる
私たちは、44品目の食事摂取頻度を問うアンケート調査の結果から、男女それぞれ主要な食生活パターンとして「伝統型」、「健康型」、「欧米型」の3タイプを導き出すことができました。食生活パターンの構成については「食生活パターンと胃がんとの関連について」をご参照ください。
女性では、欧米型の食生活で大腸がんのリスクが高くなる
10年間の追跡期間中に、男性2万300人中231人、女性2万1812人中139人が大腸がんになりました。男女それぞれについて、3つの食生活パターンに当てはまる度合いが「高い」から「低い」まで4段階にグループ分けし、グループ間で大腸がんのリスクを比較しました。大腸がん発生率に関連するほかの要因の影響を除いたうえでリスクを計算しました。関連するほかの要因とは、年齢、肥満度、総カロリー、学歴、運動習慣、大腸がん家族歴(遺伝的側面を表す)、男性ではさらに飲酒、喫煙です。食生活パターンの度合いがもっとも「低い」第一グループの大腸がんリスクを「1」とした場合に、第二から第四までの3グループの大腸がんのリスクがどうなるかを算出すると、図のような結果になりました。
女性において、「伝統型」および「欧米型」の度合いが高まるにつれ、大腸がんのリスクが上昇しているように見えました。「健康型」と男性での「伝統型」「欧米型」ではリスクの増加も減少も見られませんでした。
大腸は肛門に近い部分の直腸とそれより上部の結腸とに分けることができます。結腸と直腸とでは発がんメカニズムが異なるともいわれます。部位別のがんの人数は、男性では結腸がん156人、直腸がん75人、女性では結腸がん92人、直腸がん47人でした。大腸の部位別にリスクを算出すると、女性では「伝統型」「欧米型」の度合いが高いと結腸がんのリスクが高くなりましたが、直腸がんではそのような関係は見られませんでした。一方、男性では部位別で検討してもどちらも関連なしという結果でした。
この男女における違いは、食事以外の生活習慣によるものかもしれません。喫煙や飲酒は大腸がんと強く関連しています(「お酒・たばこと大腸がんの関連について」参照)。男性では、喫煙者や飲酒者の割合が大きく、その影響を除ききれなかった可能性があります。そのため、大腸がんへの影響がそれほど大きくない食生活パターンとの関係がはっきりしなかったとも考えられます。
大腸がんリスクに関係する食生活パターン
女性では、「欧米型」の食生活と大腸がんとの関連が示唆されました。ただし、日本人の場合、「欧米型」のどの食品が大腸がんのリスクを上げるかについては、研究がいまだ不十分です。
また、日本では、胃がんが多い地域に大腸がんも多いという関係があります。これまでの研究で、胃がんは「伝統型」と関連がありました(食生活パターンと胃がんとの関連について参照)。このことからも、「伝統型」の食生活パターンは一部の大腸がんには関連している可能性があります。「伝統型」食生活の特徴のうち、魚については大腸がんとの関連はないという結果をすでに報告しました(魚・n-3脂肪酸摂取と大腸がん罹患参照)。また、塩蔵品についての研究はまだあまり行われていません。
いずれにせよ、食生活をどのように変えると大腸がん予防が期待されるかを明らかにするのは、今後の課題です。
この研究の限界について
1.食生活パターンの分類は、食事調査で摂取量を測定した44品目だけをもとに行われました。それ以外の食品が含まれれば、パターン分類を含め結果が違ってくる可能性は否定できません
2.対象者数は多いのですが、追跡期間中の大腸がんの発生数が少ないため、特に部位別の結果などは少し信頼性に欠ける可能性があります。