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現在までの成果

食事バランスガイド遵守と居住地域の貧困度と死亡との関連について

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の9保健所(呼称は2019年現在)管内にお住まいだった40~69歳の方々に、食事調査を含む生活習慣についてのアンケートに回答していただきました。5年後の平成7年(1995)年と平成10年(1998年)には、より詳しい食事調査を含む2回目のアンケートで、当時の生活習慣について回答していただきました。そのうち、1回目と2回目の調査時点で循環器疾患、がん、肝疾患のいずれにもかかっていなかった男女約6万1300人の方々を、2回目の調査時点から平均約16.7年追跡しました。これらの調査結果にもとづいて、食事バランスガイド遵守と居住地域の貧困度と死亡との関連を調べた結果を、専門誌で論文発表しましたので紹介します(Nutrients 2019, 11(9), 2194)。

欧米社会では、大都市部を中心に貧困な状況に置かれた人々が多く住まう居住地に健康問題の多くが集中することが、健康の社会的格差の一端として問題視されてきました。これを計測するために、地区の貧困の水準を指標化したものが 地理的剥奪指標 areal deprivation index(以下、剥奪指標)です。近年、健康の社会的格差への関心が高まり、国内外の研究において、剥奪指標の値が大きく、貧困の度合いが高いと見なされる地域ほど、死亡率などの健康指標が悪いという報告がされています。さらに、貧困度の高い地域に居住する人ほど食事の質が低いことや、食事の質の低下が死亡率の上昇に関連していることも複数の研究で報告されています。同じ地域に居住していても、個人の食事の質は異なるため、私たちは、居住地の貧困度と死亡との関連が個人の食事の質によって異なるかどうかを検討しました。

1995年の国勢調査の様々な指標を合わせ用いて推計された地理的剥奪指標を居住地域の貧困度の指標として用いました(居住地の剥奪指標および人口密度と死亡との関連について)。また、食事の質を評価するために、研究開始から5年後に行なったアンケート調査の結果を用いて、食事バランスガイド遵守得点を算出し(0-70点)(食事バランスガイド遵守と死亡との関連について)、対象者を得点によって食事の質の高いグループと食事の質の低いグループに分けました。 居住地域の貧困度の指標である剥奪指標の値で対象者を3群(低・中・高)に分け、食事の質と組み合わせて、その後平均16.7年間の全死亡との関連を調べました。分析にあたって、年齢、性別、地域、人口密度、肥満度、喫煙、身体活動、糖尿病現既往歴、高血圧・脂質異常症の現病歴、職業、居住状況、コーヒー・緑茶の摂取の影響を統計学的にできるだけ取り除きました。

 

質の高い食事は、居住地の貧困による死亡リスク増加を抑制できる可能性

居住地の貧困度の高い人ほど、食事の質が低いことが分かりました(図なし)。食事の質が高く、居住地の貧困度の低い人を基準とすると、食事の質の高いグループ(図1青色バー)では、居住地の貧困度が高くなっても死亡リスクの増加はみられませんでした。一方、食事の質の低いグループ(図1赤色バー)では、居住地の貧困度が高くなるほど統計学的有意に死亡リスクが増加しました。

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図1 食事の質と居住地の貧困度と死亡との関連

 

今回の研究結果から、食事の質が高いグループでは、居住地の貧困度と死亡との関連はみられませんでしたが、食事の質が低いグループでは、居住地の貧困度が高ければ死亡のリスクが高いという関連がみられました。食事の質の高いグループで、この関連が見られなかった理由としては、質の高い食事により栄養状態が良好に保たれることで、居住地の貧困に伴う潜在的な死亡リスク増大の影響を受けにくかったことが考えられます。ただし、本研究は大都市圏を除く地域での検討であるため、今回の結果が大都市圏への居住においても当てはまるのかは分かりません。また、今回、個人の様々な特性を考慮した分析を行いましたが、調査で利用できなかった個人の特性の違いによる、この結果への影響が残っているかもしれません。このように、研究の限界はあるものの、本研究から、質の高い食事を営むことにより、居住地に関連した社会的要因による健康格差が縮小される可能性が示唆されました。

また、今回の研究では、国外の先行研究と同様に、居住地の貧困度の高い人ほど、食事の質が低いことが分かりました。この背景には、貧困度の高い地域の食のアクセスと社会的孤立の課題があると考えられます。貧困度の高い地域の居住者における食の格差を是正するためには、日本の現状に合った、社会・経済的なサポートにより、両者を改善することが望まれます。

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