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多目的コホート研究(JPHC Study)

複数の血中炎症関連マーカーと胃がん罹患との関連について

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成5年(1993年)に、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の6保健所管内(呼称は2019年現在)にお住まいだった約2万3千人の方を、平成22年(2010年)末まで追跡した結果に基づいて、複数の血中炎症関連マーカーと胃がん罹患との関連について検討しました。その研究結果を論文発表しましたので紹介します(Cytokine. 2021年8月公開)。

胃粘膜でのピロリ菌感染は慢性炎症を引き起こし、胃粘膜の萎縮、腸上皮化生、異形成と進行し、さらに、胃がんの発生に影響を与えます。障害された胃粘膜の再生には、炎症性/抗炎症性サイトカイン、可溶性受容体、血管新生因子、増殖因子などのシグナル伝達を担う分子の複雑な相互作用が関係しています。本研究では、複数の血中炎症関連マーカー濃度を一度に測定する技術を用い、健常集団から収集された血液を用いて、73の炎症関連マーカーの濃度と、その後の胃がん罹患との関連を調べました。

 

保存血液を用いた、症例コホート研究

多目的コホート研究のベースライン調査アンケートに回答のうえ、健診などの機会に血液を提供してくださった40~69歳の男女約2万3千人の方々を対象に追跡調査を行いました。研究開始から平成22年(2010年)末までに414例の胃がん罹患が確認されました。これに対し、同じ約2万3千人の方々の中から、410人を無作為に選んで対照グループに設定しました。今回の研究では、がんに罹患する前の保存血液を用いて、炎症関連マーカー濃度の測定を行いました。今回は、73の炎症関連マーカーの血中濃度は、マルチプレックスIパネル(Olink Bioscience社)により測定しました。

 

73の炎症関連マーカーは、いずれも胃がんの罹患と関連なし

測定された血中マーカーのうち、CCL11、CCL20、IL17Cは胃がん罹患リスクの増加、CCL23、MMP1は胃がん罹患リスクの低下と関連していました(図1)(傾向性P値 < 0.05)。しかしながら、複数のマーカーを一度に調べているため統計学的に有意な関連が出やすいことを考慮した解析(false discovery rateで調整した解析)では、いずれのマーカーも統計学的に有意な関連はありませんでした。すでにがんが発生していることで炎症関連マーカーが変化している影響を除くため、胃がんの診断時期を研究開始から5年未満、5年以降に分けた解析、血中ピロリ菌抗体価が陽性だった方に限定した解析、胃がんができた部位別の解析でも、結果は変わりませんでした。

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図1 血中炎症関連マーカーと胃がん罹患との関連

*各炎症関連マーカーの血中濃度の四分位カテゴリの順位が一つ上がるときに、胃がん罹患のハザード比が何倍になるかを示す(1 検出不能に対する検出可能の胃がん罹患のハザード比)。
*年齢、性、地域、胃がんの家族歴、喫煙習慣、高塩分・塩蔵食品の摂取で統計学的に調整した。

 

まとめ

本研究では、血中炎症関連マーカーの濃度と胃がん罹患との間には関連は認められませんでした。胃がんとの関連については、これまでに、私たちの研究からもすでにCRP、SAAとの関連を報告しており(高感度CRP(C反応蛋白)、SAA(血清アミロイドA)と胃がんとの関連)、中国上海におけるコホート研究からはIL8、IL6との関連が報告されています。多目的コホート研究を用いた先行研究では、研究の一部の対象者を対象としており解析対象者数などが異なること、また上海のコホートでは男性での喫煙率が50%以上と高いこと、血中ピロリ菌抗体価が陽性者の割合が高いこと(95%以上)により本研究と異なる結果が得られたのかもしれません。
今回の研究は、複数の血中マーカーを包括的に調べたことに意義があります。唯一の先行研究として、私たちが先に報告したLuminex(ルミネックス)ビーズアッセイによる64の血中炎症関連マーカーの濃度と胃がん罹患との関連(複数の血中炎症関連マーカーと胃・食道がん罹患との関連)でも、複数のマーカーを一度に調べているため統計学的に有意な関連が出やすいことを考慮した解析(false discovery rateで調整した解析)では統計学的に有意な関連性はありませんでした。この報告には、本研究と同じ血中マーカーが31含まれていますが、今回の研究結果を合わせると、合計で106の血中マーカーと胃がん罹患との関連を見たことになりますが、いずれも関連はありませんでした。

多目的コホート研究の参加者からご提供いただいた血液を用いた研究は、国立がん研究センターの倫理審査委員会の承認を得た研究計画をもとに、「疫学研究に関する倫理指針」や「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」などに則って実施されています。国立がん研究センターにおける研究倫理審査については、公式ホームページをご参照ください。

多目的コホート研究では、ホームページで保存血液を用いた研究のご紹介を行っております。
略語:CCL: C-C Motif Chemokine Ligand、CRP: C-reactive protein、CXCL: C-X-C motif ligand、IL: interleukin、MMP: Matrix Metalloproteinase、SAA: serum amyloid A

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