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多目的コホート研究(JPHC Study)

大豆製品摂取と認知症リスクとの関連

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成5年(1995年)と平成8年(1998年)に、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、高知県中央東の5保健所(呼称は2019年現在)管内にお住まいだった方々のうち、調査開始時のアンケートに回答した45~74歳の約4万1000人の男女を平成28年(2016年)まで追跡した調査結果にもとづいて、大豆製品摂取と要介護認定情報から把握した認知症(以下:認知症)との関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたのでご紹介します(Eur J Nutr 2022年7月Web先行公開)。

大豆製品にはイソフラボンが多く含まれており、複数の介入研究をまとめたメタアナリシスでは、イソフラボン摂取が認知機能や記憶の改善に効果があると報告されており、認知機能の低下やアルツハイマー型認知症に予防的にはたらく可能性が期待されています。さらに、発酵食品である納豆には、動物実験などにおいて認知機能低下の予防効果を示すナットウキナーゼやポリアミンも含まれています。しかし、これまでの疫学研究では、大豆製品や豆腐など個別食品摂取量と認知機能との関連については、一致した関連が得られていませんでした。そこで、私たちは、大豆製品、個別の大豆食品(納豆、みそ、豆腐)・イソフラボンの摂取量とその後の認知症リスクとの関連を調べました。

138食品が含まれる食物摂取頻度調査票から、総大豆製品(納豆、みそ、豆腐、ゆし豆腐、高野豆腐、油揚げ、豆乳)、納豆、みそ、豆腐(豆腐、ゆし豆腐、高野豆腐)、イソフラボンの1日当りの摂取量を計算し、人数が均等になるよう5つのグループに分け、摂取量が最も少ないグループと比較したその他のグループの、その後の認知症リスクを調べました。今回の研究では、イソフラボンの主な種類である、ゲニステインとダイゼインを足した量をイソフラボン摂取量として計算しました。解析では、年齢、地域、体格、喫煙、飲酒、糖尿病既往、高血圧薬の服用、高コレステロール血症薬の服用、がん既往歴、身体活動量、閉経状況(女性のみ)、過去1年間の健診受診の有無、職業、同居の有無、エネルギー・野菜・果物・魚介類・緑茶・食塩摂取量を統計学的に調整し、グループによるこれらの影響をできるだけ取り除きました。

 

大豆製品・イソフラボン摂取は認知症リスクとは関連がなかった

2006年から2016年までの追跡期間中(平均9.4年)に、要介護認定情報から4,911人が認知症と診断されました。男女とも、総大豆製品やイソフラボンと認知症リスクとの関連はみられませんでした。一方、個別の食品でみてみると、男性では関連は見られませんでしたが、女性では納豆摂取が多いグループで認知症リスクが低下する傾向がみられました(図1)。年齢を60歳以上と未満で分けて調べた結果、特に、60歳未満の女性では納豆摂取と認知症リスク低下との関連が統計学的有意にみられました(図2)。男性では総大豆製品および個々の大豆食品やイソフラボンと認知症リスクとの関連において、年齢での違いはみられませんでした。

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(クリックで画像拡大)

図1.大豆製品・イソフラボン摂取と認知症リスクとの関連

 

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図2.納豆摂取量と認知症リスクとの関連(年齢層別・女性)

 

研究の結果から

男女とも、総大豆製品やイソフラボン摂取とは関連がみられませんでしたが、個々の大豆食品では、女性において納豆摂取と認知症リスク低下と関連がみられました。
納豆には、イソフラボンも多く含まれていますが、ナットウキナーゼやポリアミンといった酵素も含まれており、動物実験において、認知症のリスクとなるたんぱく質(アミロイドβ)の蓄積を抑制することが報告されていることから、認知症のリスク低下にはたらいた可能性が考えられました。男女による結果の違いについて、飲酒や喫煙習慣の違いを考慮しましたが、明確な理由は明らかではなく、今後の研究が必要です。
今回の研究では、アンケート回答時に60歳未満の女性で納豆摂取と認知症リスク低下と関連がみられ、60歳以上の女性では関連がみられませんでした。大豆製品と認知機能との関連については、主に60歳以上や高齢者を対象とした研究が多く報告されていますが、今回の60歳未満を含んだ研究を行うことで、加齢や認知機能低下が食事に与える影響がより少ない集団を対象としたことで得られた結果と考えられました。
女性では、みその摂取量が最も多いグループで有意に認知症のリスクが高いという結果でした。みそは塩分を多く含んでいるため、認知症のリスクの一つである高血圧や脳卒中を介した可能性を考えましたが、私たちの過去の研究では、みその摂取量と高値血圧発症(発酵性大豆食品の摂取量と循環器疾患およびがん罹患との関連)や脳卒中(発酵性大豆製品の摂取量と高値血圧の発症との関連について)は関連がなく、理由は明確ではないため、さらなる研究が必要です。また、本研究では大豆製品とイソフラボン摂取と認知症との関連はみられませんでした。介入研究をまとめた先行研究では、イソフラボン摂取と認知機能改善について報告されていますが、主に欧米で行われた研究でありアジアからの報告は少ないことから、今後の研究が必要です。
今回の研究では、認知症の病型(アルツハイマー型か血管性認知症等)が分類できなかったことや、追跡期間中の食事の変化を考慮していない点などが限界点としてあげられます。

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