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多目的コホート研究(JPHC Study)

日本人男性において肥満と大腸がんとの関連を媒介する脂肪細胞由来ホルモンの重要性

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10保健所管内(呼称は2019年現在)にお住まいだった40~69歳の方々のうち、調査開始時のアンケート調査にご協力くださった約4万8千人の男性を対象に、肥満と大腸がんとの関連を媒介する脂肪細胞由来ホルモンの重要性を検討した成果を、専門誌で論文発表しましたので紹介します(J Epidemiol. 2024年4月Web先行公開)。

肥満は、大腸がんの確立したリスク要因であり、肥満に伴う慢性炎症状態、インスリン抵抗性の亢進と続発する高インスリン血症が、大腸がんのリスクを高めていると考えられています。また、脂肪細胞から分泌されるホルモン(脂肪細胞由来ホルモン)であるレプチンやアディポネクチンは、肥満に伴う慢性炎症状態やインスリン抵抗性に関連しているだけでなく、細胞増殖の制御など、いまだ十分に解明されていないメカニズムで大腸発がんに関わっていると考えられています(図1)。そこで我々は、以前の研究で測定された血漿レプチン値1)、血漿アディポネクチン値1)、血漿C反応性蛋白値2)(慢性炎症の代理指標)、血漿Cペプチド値3)(高インスリン血症の代理指標)を活用して、どの血漿バイオマーカーがBody Mass Index(BMI)で表される肥満と大腸がんとの関連を媒介していると考えられるのか、検討しました。

1)肥満関連遺伝子FTOに見られる遺伝子多型と大腸がん罹患リスクとの関連について
2)高感度CRP(C反応性蛋白)と大腸がん罹患との関係について
3)インスリン関連マーカーと大腸がん罹患との関係について

 

研究方法の概要

 図1に示すように、肥満と大腸がんとの関連を媒介するメカニズムとして、レプチンやアディポネクチンを介さず、また、高インスリン血症や慢性炎症も介さない経路(直接効果)、レプチンやアディポネクチンを介する経路(間接効果1)、レプチンやアディポネクチンによらず高インスリン血症や慢性炎症を介する経路(間接効果2)を想定し、肥満の総合効果と3つの媒介効果(直接効果、間接効果1、間接効果2)による大腸がんリスク比を求めました。

(クリックして拡大)

図1:肥満と大腸がんとの関連を媒介すると考えられるメカニズムと血漿バイオマーカー

 

レプチンやアディポネクチンを介する経路が、肥満と大腸がんとの関連を媒介している可能性がある

 本研究で対象とした約4万8千人の男性を平成21年(2009年)まで追跡したところ、1,389 人の大腸がん罹患が把握されました。表1の総合効果に表されるように、BMI 25.0 kg/m2未満を基準とすると、BMIが25.0–27.4 kg/m2の大腸がんリスク比は1.12倍、BMI が27.5 kg/m2以上の大腸がんリスク比は1.43倍でした。この総合効果を3つの媒介効果(直接効果、間接効果1、間接効果2)に分解したところ、レプチンやアディポネクチンを介する経路である間接効果1の大腸がんリスク比が、BMIが25.0–27.4 kg/m2で1.29倍、BMI が27.5 kg/m2で1.28倍と、直接効果や間接効果2より大きいことが示唆されました。

表1:肥満の総合効果と3つの媒介効果(直接効果、間接効果1、間接効果2)による大腸がんリスク比(BMI 25.0 kg/m2未満を基準)

  BMI 25.0–27.4 kg/m2 BMI ≥27.5 kg/m2
  リスク比 95%信頼区間 リスク比 95%信頼区間
総合効果 1.12 0.95–1.32 1.43 1.18-1.74
直接効果 0.88 0.65–1.19 1.13 0.82-1.54
間接効果1 1.29 0.98–1.69 1.28 0.98-1.68
間接効果2 0.99 0.92–1.05 0.99 0.93-1.05

 

まとめ

 本研究の結果から、肥満と大腸がんとの関連は、脂肪細胞由来ホルモンであるレプチンやアディポネクチンによって媒介されている可能性が示唆されました。しかし、レプチンやアディポネクチンは、現在までに、そのメカニズムが十分に解明されていないため、更なる研究が必要です。

 本研究の特長は、新たな統計学的手法である媒介分析を用いて、肥満と大腸がんとの関連を媒介すると考えられる複数のメカニズムの比較を行った点です。反面、本研究の短所は、血漿バイオマーカーの実測値がない対象者において、多重代入法を用いて血漿バイオマーカーの値を推定値で補完し、解析を行っている点です。血漿バイオマーカーの実測値がある対象者に限定した解析でも、同様の結果が得られていますが、更なる研究ではより多くの対象者で血漿バイオマーカーの測定が行われ、本研究の結果が再現されることが望まれます。

 

保存血液を用いた研究について

 多目的コホート研究の参加者からご提供いただいた血液を用いた研究は、国立がん研究センターの倫理審査委員会の承認を得た研究計画をもとに、「疫学研究に関する倫理指針」や「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」などに則って実施されています。国立がん研究センターにおける研究倫理審査については、公式ホームページ をご参照ください。
多目的コホート研究では、ホームページで保存血液を用いた研究のご紹介を行っています。

 

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