多目的コホート研究(JPHC Study)
2009/4/16 メタボリックシンドロームと死亡・疾病との関連を調べた3つの研究成果について
JPHC研究からの論文発表のお知らせ
多目的コホート(JPHC)研究から、メタボリックシンドロームと死亡・疾病との関連を調べた3つの研究、およびそれに関連する1つの研究の結果が発表されました。
(1)メタボリックシンドロームとがん
European Journal of Cancer Prevention 2009;18:240-247
(2) メタボリックシンドロームと死亡
Circulation Journal WEB先行公開中
(3-1) メタボリックシンドロームと循環器疾患発症
Hypertension Research 2009;32:289-298
(3-2)血圧と循環器疾患
American Journal of Hypertension 2009;22:273-280
メタボ関連要因
多目的コホート研究では、研究開始時の健診成績から、身長、体重、血圧、中性脂肪、HDLコレステロール、血糖値などのデータを用いて、メタボリックシンドローム(メタボ)の有無や関連要因とその後の発がん、循環器疾患発症、死亡リスクなどとの関係を検討しました。
メタボには国際的に複数の定義がありますが、今回の研究では、血圧高値、高血糖、低HDL、高中性脂肪、肥満(BMI25以上)の5因子のうち、3因子以上を持つ場合(米国などの基準)と、肥満の他に2因子以上を持つ場合(肥満を腹囲とすれば日本基準)について検討しました。
それらの結果から、日本では、メタボはがんには関連せず、循環器疾患予防にはむしろ血圧対策が重要であること、また、肥満のないグループでも全死亡、循環器疾患の発症(虚血性循環器疾患)および死亡リスクが上昇することなどが示されました。現行のメタボの診断基準では、肥満のない、予防可能なハイリスク者の多くを見逃すことが懸念されます
メタボはがんには関連せず、循環器疾患にはむしろ血圧対策が重要
それぞれの研究の結果を簡単に示します。
(1) 40—69歳男女約2万8000人を平均約10年追跡、1858人にがんの発生を確認。メタボがあるグループとないグループで、何らかのがんにかかるリスクに差はなかった。部位別には、男性で肝がん、女性で膵がんについてはメタボありのグループでリスクが高くなったが、その他の部位については、関連ははっきりしなかった。
(2) 40—69歳の男女約3万4000人を平均約13年追跡し、2,040人の死亡(うち、がん死亡947人、循環器疾患死亡304人)を確認。男性では虚血性心疾患死亡および(日本基準のみ)循環器疾患死亡リスク上昇、女性では総死亡、(日本基準のみ)虚血性心疾患死亡リスク上昇が見られた。メタボとがん死亡リスクとの間には関連がみられなかった。さらに肥満(BMI25以上)の有無で分け、メタボ関連因子集積との関連を調べた。すると、全死亡、あるいは、循環器疾患死亡のリスクの大きさは、肥満のないグループでも同程度であった。
(3-1) 40—69歳の男女約2万3000人を平均約11年追跡、693人が循環器疾患(脳卒中または虚血性心疾患)の診断。メタボと男性の虚血性疾患(心疾患と脳梗塞)との関連を確認。脳卒中との関連はなかった。メタボの影響の大きさを調べるために、「寄与危険度割合(概要版参照)」を算出した。その結果、メタボ対策よりも高血圧対策が重要であること、および肥満を必須としたメタボで見落とされるハイリスクグループが少なくないことが示された。
(3-2) 至適血圧(欧州高血圧学会/欧州心臓病学会による血圧ガイドラインより)を達成することで、脳卒中の50%以上、全循環器疾患死亡の30%以上を予防できると推定。
研究の結果について
本研究では腹囲の測定値は行っていません。従って、BMIによる代替えは、必ずしも内臓肥満を評価したものではありません。
しかしながら、今回の多目的コホートからの研究結果やこれまでのエビデンスから、がん・循環器疾患予防を目的とした公衆衛生政策としては、肥満に重点を置いた対策により期待できる効果は小さく、むしろ、たばこ対策や高血圧対策の重要性が改めて強調される結果となりました。
詳しくは、ホームページに掲載された概要版および詳細版をご覧ください。
・メタボリックシンドローム関連要因(メタボ関連要因)とがんとの関連について —概要—
・メタボリックシンドローム関連要因(メタボ関連要因)と循環器疾患発症との関連連 —概要—
・メタボリックシンドローム関連要因(メタボ関連要因)と死亡との関連について —概要—
・血圧区分と循環器疾患発症リスクおよび死亡リスクとの関連 —概要—