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多目的コホート研究(JPHC Study)

飲酒と2型糖尿病の発症について

―「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果―

私たちはいろいろな生活習慣と、がん・糖尿病・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)に実施したアンケート調査で生活習慣について回答していただいた、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県石川という4地域にお住まいの、40~59歳の男女各約2万人の方々を、10年間追跡した調査結果にもとづいて、飲酒と2型糖尿病の関連を調べ、その結果を国際専門誌(Diabetic Medicine 2005年3月22巻323 - 331ページ)に報告しましたので、ここに概要を紹介します。
研究参加者のうち、5年後(1995年)、10年後(2000年)の両方とも質問票調査に回答したのは約3万人でした。この集団から、ベースライン調査での質問事項に基づいて、すでに糖尿病になったことがあった1,120人を除き、さらに心疾患や慢性肝疾患の既往のあった方などを除外して、最終的に28,893人(男性12,913人、女性15,980人)を対象として糖尿病の研究を行いました。飲酒歴については、摂取するアルコール飲料の種類と1週間の摂取頻度、および1回の摂取量から、1日のエタノール摂取量を算出しました。

糖尿病の新規発症

10年間の追跡期間中、新たに1,183人(男性703人、女性480人)が糖尿病を発症したと答えました。 10年間の糖尿病発症率を算出すると、男性で5.4%(0.63%/年)、女性では3.0%(0.34%/年)になり、男性の方が高率でした。ただし自己申告による質問票調査では、通常、半数程度の把握率しかないことを私たちは確認しており、実際には、年間の発症率は男性で1.0?1.4%、女性で 0.5?0.7%であったと推定されます。なお、日本人の2型糖尿病発症に関するこのような男女差は、厚生労働省が国民栄養調査と平行して行った糖尿病実態調査でも確認されています。

糖尿病発症危険因子の解析

糖尿病の発症リスクを、男女別に、年齢、喫煙状況、エタノール摂取量、肥満指数(BMI:body mass index)、糖尿病の家族歴、運動習慣、高血圧の既往について検討しました。その結果、男女ともに、年齢、BMI、糖尿病の家族歴、高血圧の既往は糖尿病リスクと関連していました。喫煙状況に関しては、過去の喫煙、現在20本/日以上の喫煙でリスクの上昇がみられました。
エタノール摂取量については、男性で、1日あたり23g(日本酒換算で1合)以上のグループで糖尿病リスクが有意に上昇していました。一方、女性では飲酒者が少なかったため、飲酒量と糖尿病リスクの関係は見られませんでした。
* BMIに関しては、「肥満指数と死亡」に説明してありますので、ご参照ください。

多目的コホート研究でみられた2型糖尿病リスク

男性の飲酒と糖尿病発症との関連についてのBMIの影響の検討

男性の飲酒量と2型糖尿病発症との関連について、さらにBMIでグループ分けしたうえで解析を行いました。
すると、図に示すように、BMI 22以下の男性では、飲酒量が増えるにつれて糖尿病リスクも高くなりました。お酒を飲まないグループにくらべ、エタノール摂取が1日当り 23.1~46.0グラム(日本酒換算で1~2合)のグループで1.9倍、46.1グラム以上摂取するグループでは2.9倍まで高くなりました。
一方、BMI 22より大きい男性では、1日のエタノール摂取量と糖尿病発症との間には関連は認められませんでした。ただし、BMI 22より大きいグループでも、飲酒によって糖尿病リスクが減少するというわけではありませんでした。

男性のBMIごとの飲酒と糖尿病発症リスク

お酒は1日1合まで

膵臓から分泌されるインスリンは、体内を循環し、栄養素の細胞への取り込みをコントロールしています。インスリンが十分に働かなかったり不足したりすると、高血糖が生じます。アルコール摂取によってインスリンへの反応(感受性)は改善するとされますが、その反面、長期間飲酒を続けるとインスリンの分泌量が低下することも報告されています。今回の研究では、日本人のやせた男性グループで、飲酒による2型糖尿病リスクの明らかな上昇がみられました。やせているグループには、もともとインスリンの分泌能力が低くて太れない人などもいるために、インスリン感受性の改善というメリットよりもインスリン分泌量の低下というデメリットの方が強調される結果になったと考えられます。
これまでに欧米から報告された研究結果には、飲酒が2型糖尿病に予防的であるというものもあります。最近日本から発表された別の研究では、お酒を少し(1日当り日本酒換算で1~2合)飲むグループでは予防効果が見られたというもの、やせているグループでは飲酒によってリスクが増えるが、BMIが22-25のグループでは予防的であったというもの、男性では飲酒によってリスクが増したというものがあり、一致していません。全般的な健康を考えると、すでに報告した飲酒と総死亡の関連を調べた多目的コホート研究の結果からも、日本酒にして1日1合を超える飲酒は控えるようにしたほうがよいでしょう。

多目的コホート研究からの飲酒関連の研究成果:飲酒と死亡飲酒とがん死亡喫煙・飲酒と胃がん罹患飲酒・喫煙と大腸がん罹患飲酒と脳卒中罹患飲酒とがん全体の発生率

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